アイスブルー(ヒカリのずっと前)
拓海は手元の紙に、カードのデザインを考え始めた。
何枚か、レイアウトらしきものを書いてみる。
顔をあげて、部屋を見回した。
台所から、ガリガリという氷をかく音がする。
この家に通いだしてから、一ヶ月程度。
でも、もうずっとここにいるような、そんな気持ちにさせられる。
鈴音がお盆にかき氷をのせてやってきた。
涼しげなガラスの器に、山盛りの氷。
イチゴのシロップがグラスの底をピンク色にしている。
「食べよ」
二人でスプーンを崩しながら、冷たい氷をほおばった。
「いたた」
鈴音が眉間を押さえる。
「口で暖めてから食べると、キーンとしないんだよ」
「でもそうすると、お腹に入ったときはもう氷じゃないでしょ? 意味ないじゃない」
「まあね」
拓海はスプーンをくわえて、そう言った。
蝉が突然なきやんだ。
二人で思わず外を見る。
しばらくして、再び蝉の声がはじまった。
「どうして、蝉って一斉になきやんだり、なきだしたりするんだろう」
鈴音が首を傾げる。
「蝉のリーダーが声をかけてるんだよ」
拓海は笑いながら言った。
「リーダーいるの?」
「うん、その蝉は八日間生きる」
「長生きだね」
「だよね」
拓海はまじめに頷いた。
それから二人で、笑顔になった。
鈴音が笑うと、目尻にちいさな皺ができる。
青い光が、ゆらゆらと揺れているように見えた。