アイスブルー(ヒカリのずっと前)


拓海はあぐらをかいて、プリンタの前に座る。


規則正しい音。
出力されるカードを手に取り、畳に並べて行く。

今日は風があまり吹かないが、気温はそれほど高くない。


鈴音が台所から出て来た。
お盆の上に、冷えた麦茶をのせている。


「はい」
鈴音は拓海にグラスを渡すと、隣に座った。
ブルーのTシャツに、黒いデニム。
夏の最初に比べると、いくらか日焼けをしたように見えた。


「うまくできたね」
鈴音がカードを一枚手に取り、そう言った。

「でしょう?」
拓海は得意そうに鈴音を見やる。


鈴音もうれしそうにカードを眺めた。


「繁盛するかしら?」

「大丈夫だよ。鈴音さんのごはん、おいしいもん」

「あとは気軽に寄ってもらえるような雰囲気作りだよね」
鈴音が腕をくんで、溜息をついた。

「どうして、溜息?」

「だって、それが一番難しそうだもん」

「それも大丈夫。僕、ここ居心地いいもん」
拓海がそう言うと、鈴音は疑い深い目つきをした。

「だからって、いつも来ていいってことじゃないんだよ」
鈴音は言った。

「……やっぱり駄目?」

「駄目。だって、拓海君には学業があるでしょう?」

「じゃあ、高校を卒業したら?」


鈴音は拓海の顔をみて、目を細める。
「進学しないの? カメラの学校」

「……いかないかな」

「なんで?」

「だって、ここに来れなくなるもん」

「もう……それじゃ、駄目なんだって」
鈴音が眉間に皺を寄せて言った。

「じゃあ、ここから学校かよう」

「どうして、そんなに一緒にいることにこだわるの? たまにお客さんで来てくれたら、それでいいのに」

「それじゃあ駄目だって、僕の中の僕がそう言ってるんだもん」

「あ、また不思議なこと言って。ごまかそうとしてるでしょう」

「違うよ! 説明が難しいけど、本当にそう感じるんだ」
拓海は自分の胸をとんとんと叩いた。

「不思議少年」
鈴音はあきれたように、そうつぶやいた。


拓海は聞こえない振りをして、再びカードを手にとった。


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