アイスブルー(ヒカリのずっと前)
「毎日、拓海がお邪魔してるみたいですね」
「ええ。手伝ってくれてるの。助かってるわ」
「拓海が楽しそうに、ここでの出来事をしゃべります」
「そうなの」
鈴音は結城の真意がわからず、とりあえず頷いた。
「あいつは、まだ子供です。わかりますよね?」
結城が少し首を傾げて鈴音を覗き込む。
鈴音は無意識に緊張する。
「ええっと、ああ、そうなの?」
「子供です。今、拓海は自分を見失ってる。初めての恋だから、見失ってるんだと思います」
「恋?」
「違うんですか?」
「違うと思うけど。なんていうか……」
「じゃあ、鈴音さんは?」
結城が不意に顔を近づける。
鈴音は反射的に身体を反らして、顔を遠ざけた。
結城が唇に笑みを浮かべる。
鈴音はなんだか、からかわれているような気分になった。
負けないように姿勢を正す。
「鈴音さんは拓海のこと、どう思ってます?」
「わかりません」
「拓海は不器用だし、恋愛経験も少ない。鈴音さんには物足りないかもしれません」
「あの……何を言いにここへ?」
「僕と試しませんか?」
「?」
鈴音はよくわからず、首をかしげた。
「鈴音さん、顔を洗ったばっかりでしょう?」
鈴音は思わず頬に手をやる。
結城は身体を鈴音の方に傾け、手を伸ばす。
ごく自然に、鈴音の頬を手の甲でなでた。
「きれいな肌ですね」
鈴音は反射的にその手を払って、後じさりする。
「何をしにきたか、わかんないけど、帰って」
鈴音は言った。
「帰りません」
「ちょっと……」
「興味ありませんか?」
「何の興味?」
「興味、ない訳、ないと思うけどな」
結城は鈴音の指をさりげなく触る。
あわてて鈴音は手を引っ込める。
「触れるの、嫌い?」
鈴音はどう答えていいのかわからない。
慌てふためいているのが、自分でもよくわかった。
「僕は好きです。触れ合うと、あったかくて、滑らかで」
鈴音は緊張で言葉が出てこない。
「特に、頬から、首へのラインに手を触れるのが、一番好きです。女性も、幸せそうに目を閉じる」
結城はそう言って、手を伸ばし鈴音の頬に触れた。
「あの」
鈴音はその手を振り払おうと、右手で手首をつかんだが、思った以上の強い力で引き寄せられた。
「緊張しないで」
結城はそういって、鈴音の瞳を覗き込む。
鈴音は軽いパニック状態でうまく言葉がでてこない。
結城が鈴音に顔を近づける。
まずい。
鈴音は力を振り絞って結城を押しやった。
結城の頬を思い切りつねる。
「いたっ」
結城が声を上げる。
「あのね!」
鈴音が大声を出した。
「大人をからかわない! こんなこと、する必要ないから!」
結城が頬を手で押さえ、鈴音を見る。
「拓海君が心配で、来たんでしょうけど。そんな関係じゃないの!」
「じゃあどんな関係?」
結城が優しい目をして、鈴音を見る。
その瞳に拍子抜けして、鈴音は思わず「特別」と答えた。
「特別」
結城が繰り返す。
「わかんない。本当にわかんないけど。男性じゃないし、息子でもない。赤の他人だけど、放っておけないの。あの子が望むなら、その願いをかなえてあげたい。」
鈴音はそう言ってから、自分の言葉を理解し始める。
「特別。そう、特別」
鈴音は繰り返した。
「鈴音さん、これから、誰かと出会って、恋愛して、結婚するかもしれないでしょ?」
結城が訊ねる。
「……かもね」
「そのとき、拓海と一緒だったら、どうするんですか?」
鈴音はそう問われて、しばらく考えた。
どうするんだろう。
「彼を一人にはしない、かな」
鈴音がそう言うと、結城は立ち上がった。
庭に陽が入り始めている。
結城はまるで別人のように、鈴音を見ていた。
「僕と試しませんか?」
と言った彼ではない。
大人びていて、優しい瞳。
「わかりました。失礼をして、すみませんでした」
結城はそういうと、頭を下げた。
鈴音は呆気にとられて、庭を出て行く結城を見続ける。
門扉が締まり、再び蝉の声だけが耳につくようになると、鈴音は「あああああ」と叫んで、ねころんだ。
どっと汗が噴き出してくる。
「びっくりしたあ」
鈴音はそう言うと、身体をおこして、結城の座っていた場所を見つめる。
「まるで別人。あの子、俳優かなんかになった方がいいよ。ああ、寿命が縮んだ。なんか、飲も」
鈴音はそう言って、ふらふらと立ち上がる。
それから自分のあわてっぷりを思いかえして、声に出して笑った。
「ええ。手伝ってくれてるの。助かってるわ」
「拓海が楽しそうに、ここでの出来事をしゃべります」
「そうなの」
鈴音は結城の真意がわからず、とりあえず頷いた。
「あいつは、まだ子供です。わかりますよね?」
結城が少し首を傾げて鈴音を覗き込む。
鈴音は無意識に緊張する。
「ええっと、ああ、そうなの?」
「子供です。今、拓海は自分を見失ってる。初めての恋だから、見失ってるんだと思います」
「恋?」
「違うんですか?」
「違うと思うけど。なんていうか……」
「じゃあ、鈴音さんは?」
結城が不意に顔を近づける。
鈴音は反射的に身体を反らして、顔を遠ざけた。
結城が唇に笑みを浮かべる。
鈴音はなんだか、からかわれているような気分になった。
負けないように姿勢を正す。
「鈴音さんは拓海のこと、どう思ってます?」
「わかりません」
「拓海は不器用だし、恋愛経験も少ない。鈴音さんには物足りないかもしれません」
「あの……何を言いにここへ?」
「僕と試しませんか?」
「?」
鈴音はよくわからず、首をかしげた。
「鈴音さん、顔を洗ったばっかりでしょう?」
鈴音は思わず頬に手をやる。
結城は身体を鈴音の方に傾け、手を伸ばす。
ごく自然に、鈴音の頬を手の甲でなでた。
「きれいな肌ですね」
鈴音は反射的にその手を払って、後じさりする。
「何をしにきたか、わかんないけど、帰って」
鈴音は言った。
「帰りません」
「ちょっと……」
「興味ありませんか?」
「何の興味?」
「興味、ない訳、ないと思うけどな」
結城は鈴音の指をさりげなく触る。
あわてて鈴音は手を引っ込める。
「触れるの、嫌い?」
鈴音はどう答えていいのかわからない。
慌てふためいているのが、自分でもよくわかった。
「僕は好きです。触れ合うと、あったかくて、滑らかで」
鈴音は緊張で言葉が出てこない。
「特に、頬から、首へのラインに手を触れるのが、一番好きです。女性も、幸せそうに目を閉じる」
結城はそう言って、手を伸ばし鈴音の頬に触れた。
「あの」
鈴音はその手を振り払おうと、右手で手首をつかんだが、思った以上の強い力で引き寄せられた。
「緊張しないで」
結城はそういって、鈴音の瞳を覗き込む。
鈴音は軽いパニック状態でうまく言葉がでてこない。
結城が鈴音に顔を近づける。
まずい。
鈴音は力を振り絞って結城を押しやった。
結城の頬を思い切りつねる。
「いたっ」
結城が声を上げる。
「あのね!」
鈴音が大声を出した。
「大人をからかわない! こんなこと、する必要ないから!」
結城が頬を手で押さえ、鈴音を見る。
「拓海君が心配で、来たんでしょうけど。そんな関係じゃないの!」
「じゃあどんな関係?」
結城が優しい目をして、鈴音を見る。
その瞳に拍子抜けして、鈴音は思わず「特別」と答えた。
「特別」
結城が繰り返す。
「わかんない。本当にわかんないけど。男性じゃないし、息子でもない。赤の他人だけど、放っておけないの。あの子が望むなら、その願いをかなえてあげたい。」
鈴音はそう言ってから、自分の言葉を理解し始める。
「特別。そう、特別」
鈴音は繰り返した。
「鈴音さん、これから、誰かと出会って、恋愛して、結婚するかもしれないでしょ?」
結城が訊ねる。
「……かもね」
「そのとき、拓海と一緒だったら、どうするんですか?」
鈴音はそう問われて、しばらく考えた。
どうするんだろう。
「彼を一人にはしない、かな」
鈴音がそう言うと、結城は立ち上がった。
庭に陽が入り始めている。
結城はまるで別人のように、鈴音を見ていた。
「僕と試しませんか?」
と言った彼ではない。
大人びていて、優しい瞳。
「わかりました。失礼をして、すみませんでした」
結城はそういうと、頭を下げた。
鈴音は呆気にとられて、庭を出て行く結城を見続ける。
門扉が締まり、再び蝉の声だけが耳につくようになると、鈴音は「あああああ」と叫んで、ねころんだ。
どっと汗が噴き出してくる。
「びっくりしたあ」
鈴音はそう言うと、身体をおこして、結城の座っていた場所を見つめる。
「まるで別人。あの子、俳優かなんかになった方がいいよ。ああ、寿命が縮んだ。なんか、飲も」
鈴音はそう言って、ふらふらと立ち上がる。
それから自分のあわてっぷりを思いかえして、声に出して笑った。