アイスブルー(ヒカリのずっと前)
何を話す?
どういう顔をすればいい?
団地の階段から結城が降りて来た。
首に巻かれた包帯が痛々しい。
結城は立ち止まって拓海を見つめ、それから心を決めたように歩いて来た。
ブルーのシャツに、黒いデニム。
短くなった髪が、太陽の光で艶やかに光る。
「久しぶり」
結城が拓海に並んだ。
「うん」
拓海は頷く。
「学校行くだろ? 俺、コンビニに行くから、途中まで一緒に行こう」
結城は拓海を促すと、道を歩き出した。
風が吹き抜ける。
木々から、緑の香りが溢れてくる。
「まだ暑いな」
結城は目を細め、太陽を見上げた。
「うん」
拓海は結城の顔をから視線をそらした。
結城の視線を感じる。
どうしたらいいのかわからない。
「痛む?」
結城が訊ねた。
「何が?」
「手」
「あ、ううん」
拓海は首を振った。
「……悪かった」
結城が言う。
拓海は結城の横顔を見上げた。
「二度としないで」
拓海はやっと、それだけ言った。
「うん」
結城は頷いた。
「学校、いつ行く?」
拓海は訊ねた。
「まだ、わかんない。首の傷が、消えたら、かな」
「きれいになるの?」
「完全には、なくならないと思うけど」
結城が手で首をなでる。
「ある程度、目立たなくなると思う。みんな、噂してるだろ?」
拓海は困ってうなだれた。
「そうだと思った。どっからそんな話し、出てくるんだろうな」
結城があきらめたように言った。
「でも、来いよ」
結城は曖昧に頷いて、再び首に手をあてた。
「痛いの?」
拓海が訊ねる。
「いや。それほどでもない。でも、しばらくのどが痛くて、声がでなかった」
拓海は血を吐いて咳き込んだ結城の姿を思い出した。
とたんに恐怖がこみ上げてくる。
「二度とするな」
拓海は再び強く言った。
それしか言葉が思いつかなかった。