アイスブルー(ヒカリのずっと前)
拓海は畳に仰向けに寝転び、目を閉じた。
「彼女はどんな人?」
彼女の青白い光が、目の裏側に焼き付いているようだった。
顔に覚えはない。
会ったことはない。
たぶん。
でも何か自分とつながりがあるのだろうか。
それとも、たまたま、偶然に見えただけなのか。
半袖だと、夜は寒い。
窓からの冷たい風が、拓海の肌を冷やした。
古い畳から出るささくれのようなくずが、拓海の腕にちくちくとささる。
すると玄関をノックする音がした。
「はい?」
拓海は身体を起こして、大きな声を出した。
「俺」
結城の声が玄関越しに聞こえてきた。
拓海は立ち上がり、玄関をあける。
「夕飯食べた?」
結城が黒いパーカーを着て立っていた。
フードをかぶり、目の辺りはほとんど見えない。
「食べたよ。入って」
拓海は結城を招き入れた。
「なんか飲んでいい?」
結城が冷蔵庫を開けながら訊ねる。
「いいよ。コーラが入ってる」
拓海は六畳の部屋の真ん中におかれた、折りたたみ式の座卓の前にあぐらをかいた。
「拓海も飲む?」
「じゃあ、ちょうだい」
勝手を知る結城は、食器棚からコップを取り出し、なみなみとコーラを注いだ。
「はい」
結城が差し出す。
「サンキュー」
結城があぐらをかいた。
年季の入った六畳の台所と、それに続くリビングと呼ばれている六畳の部屋。
もう一つ寝室と呼ばれている、六畳の部屋。
古い団地の、古い二DK。
結城の家も同じ間取りだったが、おかれている家電が拓海の家よりも新しく、家具やカーテンも明るく女性的だった。
「ナツキちゃんと仲直りできた?」
拓海はコーラのグラスに口を付けながら訊ねる。
「もちろん。俺、そういうのうまいんだ。おふくろに似たんだな」
結城が口の端をあげて、皮肉っぽく笑う。
「何かこつがあるの?」
「こつ? 知りたいの?」
結城がコーラをあっという間に飲み干す。
「そりゃ、知りたいよ」
拓海が答えると
「拓海には無理だよ」
と結城が笑う。
「なんでさ」
拓海は思わず頬を膨らます。
「顔が違う」
「なんだ。やっぱり顔自慢か」
拓海が大げさに溜息をついた。
「自慢じゃないよ。事実。俺は自分の武器を知っていて、それを最大限に活かせるんだってこと」
「なんかやっぱり自慢ぽいよ」
「そうかな」
結城がフードをとって、首を傾げる。
「寒くなってきた。窓閉める?」
拓海がぶるっと震えた。
「俺、ちょっと吸いたい」
結城がパーカーのポケットからタバコを取り出す。
「わかった。俺がなんか着るよ」
拓海はテレビの横にある、昔ながらの大きな茶色のタンスから、ジャージを引っぱりだした。