アイスブルー(ヒカリのずっと前)

それから。

真っ赤なしぶきが、天井に散るのが見えた。
木目のある天井と、蛍光灯に、赤い丸いつぶ。


ぼんやりとしてる。
全部がぼんやりと、まるで霧が立ちこめたように。


誰かが叫んでる。
自分が仰向けに倒れているのがわかった。


身体がだるい。
床に吸い込まれていくみたい。


泣いてる。
泣いてる声がする。


手を出そうとするが、言うことをきかない。


どうしたんだろう。


鈴音の目の前には、いろんな光景が浮いては消えて行く。




縁側で祖母とスイカを食べている。
種をまこうよ、おばあちゃん。
じゃあ、おばあちゃんが、来年、おっきくして、すずちゃんに食べさせてあげるよ。


母と手をつなぎ、散歩をしてる。
見上げると、母の横顔。
大好きよ、お母さん。
そういうと、母が優しく笑う。


家族で食卓を囲んでいる。
父の好きな枝豆とビール。
テレビで野球を中継してる。
ねえ、チャンネルをかえて、お父さん。
アニメが見たい。
しつこく頼んで、やっとチャンネルを変えてもらう。
うれしくて何度もありがとう、と言う。
父は仕方ないな、というように笑った。



ああ、そういえば。

そういえば、こんな風に愛されてきた。


誰かが鈴音の手を取る。


この手。
最後に、こうやって、握ってもらって。


本当に幸せ。


「すずちゃん」


祖母の声がする。


「すずちゃん、時間だよ」

「うん、わかった」


鈴音は手を握る人が、自分をずっと探してくれていた人だとわかった。


「ありがとう。本当に、会いに来てくれてたんだね」


振り返ると、祖母がいた。


「さあ、行こうか」


鈴音は頷いて、祖母の側に駆け寄る。



「願って、すずちゃん。
これから、あなたの行く先を。

全部、自分で選べるんだよ」



祖母にそう言われ、鈴音は少し考える。
そして、願った。



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