アイスブルー(ヒカリのずっと前)
「嫌だ、嫌だよ」
拓海は鈴音の手を握り、叫んだ。
「目を開けて、お願い。いかないで」
畳の上は真っ赤に濡れていた。
拓海の制服のズボンも、ぐっしょりと濡れる。
鈴音の首から、恐ろしいほどの血が流れ出ていた。
「ごめんなさい」
背後から声がして、拓海は振り返った。
部屋の隅に、母親が座り込んでいた。
手に血だらけのはさみをもち、呆然としている。
「傷つけるつもりじゃなかった。ただ、拓海を守りたかった、それだけなのに」
母親がうわごとのように繰り返した。
拓海は混乱して、何がなんだかわからない。
鈴音の青い光が、消えて行く。
「嫌だ嫌だ」
拓海は泣き叫んだ。
「助けて、誰か……」
鈴音の口が、少し動く。
拓海は「何?」と言って、耳を寄せた。
鈴音の口からは、吐息のような音が聞こえるだけ。
「何言ってるの? ねえ、聞こえないよ。お願い」
拓海は嗚咽で震える。
鈴音の頭を抱きしめる。
光が。
青白い光が消えて行く。
まるで。
グラスの中の氷が、陽の光で溶けて行くみたいに。
きらきらと輝いて。
そして散って行く。
「嫌だああ」
拓海は叫んだ。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
後ろで母親が唱えるようにつぶやいた。