アイスブルー(ヒカリのずっと前)
授業は案の定、眠くてしかたがなかった。
何度もあくびがでてくる。
結城がちらりと拓海の方を振り向き、「おい」というような表情をつくった。
開いた窓から、心地よい風が入ってくる。
乾いた土の香りもした。
拓海はとうとう、机につっぷした。
頬にあたるなめらかな感触。
冷たくて気持ちよかった。
そしてそのまま、授業が終わるまでうとうととしてしまった。
「起きろよ」
頭を叩かれて、我に返る。
「おはよう」
「もうホームルームまで終わったんだぞ」
結城が呆れた顔をした。
「え? いつのまに」
「爆睡し過ぎだよ」
「うん。だね」
拓海はほっぺたを両手でたたいた。
「今日さ、俺、予備校に行こうと思う」
「そうなの?」
「ああ。資料をもらいに」
「入るんだ」
「夏期講習に行っておこうかと」
「ああ、そうか」
「夏なのに、ちっとも楽しくないよな」
結城が窓枠に寄りかかって、うんざりした顔をする。
「拓海も行く?」
「資料を取りに?」
「夏期講習」
「やだよ」
拓海が冗談じゃないと首を振った。
「だよな。じゃあ、資料取りにいくのは付き合う?」
「なんでさ」
「……だよな」
結城がにやっと笑った。
「じゃあ、またな」
「うん」
拓海も手を上げる。
脳裏にちらりと、結城が涙を流している姿がよぎった。
「あのさあ、結城」
「何?」
ポケットに手を入れて、結城は教室を出ようとしていた。
黒髪が不思議と紅く艶やかに見える。
長いまつげが動く。
いつも通りの、結城の顔。
「いや……気をつけて」
拓海がそう言うと、結城は「は?」という顔をして、それから「わかった」と言って手をあげた。