アイスブルー(ヒカリのずっと前)


道路の真ん中で崩れ落ちる少年を見て、鈴音は思わず「あ!」と声をあげた。
あまりにも突然の出来事で、鈴音はしばらく呆然としたが、気を取り直して身体を窓から乗り出す。


「ねえ! 大丈夫? ねえ!」
と少年に声をかけた。


しかし少年はぴくりとも動かない。
鈴音は手に持っていた箒を放り出すと、階段を駆け下りた。


家を飛び出し、倒れている少年に走り寄る。
つっぷしている少年の肩を持ち上げ、仰向けにする。
真っ青な顔をして目を閉じている。


「起きて、ねえ。大丈夫?」
鈴音は膝に少年の頭をのせ肩を揺すってみたが、少年は目覚めない。

ふと、坂の下から車が昇ってくる音がするのに気づいた。


「ああ、もう! どうしてこんな道路の真ん中にいるのよ?」
鈴音は少年を脇の下から引っぱりあげると、家の方へ引きずる。


「重い……小柄なくせにっ」
鈴音は半ば怒りながら、少年を門の中に引っ張り込む。


門を超えた時点で少年をおろしたかったが、下の砂利が痛そうで、そのまま縁側の方へと少年を引きずる。
気合いを入れて、縁側へ少年を持ち上げる。
なんとか寝かせることができた。


はいていたサンダルを脱ぎ捨てて、縁側から家に入った。
鈴音はジーンズのポケットを「携帯」と触ってから「ああ、なかったんだ」と思いつく。
玄関の子機を取りに走る。


「一一九? それとも一一〇だっけ?」
鈴音は混乱しながら、子機を片手に少年の隣に膝間づいた。

「一一九だ」
鈴音がプッシュボタンを押そうとしたとき、少年の手が伸びて、鈴音のシャツの裾をつかんだ。
鈴音はびっくりして少年を見た。


少年は横たわりながらも、しっかりした目で鈴音を見上げていた。


「かけないで」

「え?」

「救急車、呼ばないで」

「でも……」

「救急車は駄目。払えない」

「……じゃあ、今から病院に送るから」

「大丈夫」少年が肘をついて、起き上がろうとする。

「本当に大丈夫? だって」

「大丈夫……です。」

「よくあるの? 持病か何か?」

「いえ、二回目かな?」

「検査したの?」

「してません。あの、水をもらえまえんか?」

「ああ。」
鈴音は頷くと台所に入って行った。
グラスに氷を入れ、水を注ぐ。


「あ、家にいれちゃった」
鈴音は気づいた。


幼そうに見えるけれど、高校三年生だって言ってた。
もう肉体は大人だけれど……。


鈴音は扉越しにちらりと少年を見やる。
縁側に腰掛け、背中を丸めている。
しんどそうに片手をついていた。


「仮病には見えないしな……ま、いっか」
鈴音はグラスをもって少年に近づく。

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