アイスブルー(ヒカリのずっと前)
そこにドアをノックする音が聞こえた。
拓海はふと現実に戻る。
「帰って来た?」
ドア越しに結城の声がした。
「うん」
拓海はドアを開けて、結城を入れた。
「おかえり」
拓海は結城に言った。
「俺の方がずっと早く帰って来たよ。どこいってたの?」
結城は西日に目を細めながら、部屋に入って来た。
「ああ、うん。ちょっとね。なんか飲む?」
「拓海と同じ物で」
結城が部屋に座る。
拓海はコップにイオン飲料を注ぎ、結城に手渡す。
「ありがとう」
結城がコップに口をつけ、拓海を見上げる。
「あれ?」
「何?」
「その服、見たことない」
「ああ」
拓海はシャツを引っ張って、照れくさそうに笑った。
「どうしたの?」
「かりたんだ」
「誰に?」
「……誰かに」
拓海は返事に困って、言いよどんだ。
「誰だよ」
結城の顔にからかうような表情がうかんだ。
「いいだろう、誰でも」
拓海は結城の側に座った。
「教えろよ」
結城がシャツを引っ張った。
「借り物なんだから」
拓海がシャツを引っ張り返す。
「女物だ」
「そうだよ」
「誰?」
「結城の知らない人だよ」
「本当?」
「そうだよ」
「なんで借りたんだ」
「ちょっと倒れちゃって」
拓海がそういうと結城がびっくりした顔で顔を見た。
「大丈夫なのか?」
「うん。お腹が減りすぎて倒れちゃったんだ」
「なんだそれ」
「俺もよくわかんないよ」
「病院行ったのか?」
「ううん。前も一回あったし、大丈夫だよ」
「そうか」
「そのとき制服が汚れちゃって、親切な人が替えを貸してくれたんだ」
「なんだ」
「ほら、たいしたことないだろう」
「やっぱりたいしたことなかったな」
「なんだよ、その言い方は」
「拓海がそんな大胆なことをする訳ないと思ったんだ」
結城ががっかりしたという顔をする。
拓海は不服そうに頬を膨らませた。