アイスブルー(ヒカリのずっと前)
「で、予備校の方は?」
「ああ、行って来たよ」
「入るの?」
「夏期講習から。でもその前に学力判定テストがあるんだって」
「ふうん」
「お前も受けようよ」
「やだよ」
拓海が即座に言った。
「ああ、つまんない夏休みだな。去年はさ、拓海と一緒に海の家でバイトしたろう?」
「そうだね」
「楽しかった」
「水着の女の子が見られて?」
拓海が意地悪そうに言う。
「そりゃ見てると楽しいよね」
結城がにやっと笑った。
「僕はなんだかな」
「なんだよ」
「結城の周りにばっかり女の子が寄って来て、つまんなかったな」
「それは仕方ないだろう?」
「仕方ないとか、言うなよ。嫌みだな」
「でも、お前も夏の間だけ女の子と付き合ったじゃないか。えっと、名前は」
「ちかちゃん」
「そうそう、ちかちゃん。きれいな子だったよ」
「うん、そうだね」
「なんで別れちゃったんだ?」
結城が聞く。
「今更聞くなよ」
「いいじゃないか。なんでさ」
「……だって、別に好きじゃなかったから」
「嫌いってこと?」
「違うよ。好きって気持ちになれなかったんだ。だから悪くって」
「そんなのいいのに」
結城が後ろに手をついて、片足を立てる。
西日で艶のある髪はさらに艶を増す。
「いいって、なんだよ。必要なことだろう?」
「必要かな?」
「必要だよ。何言ってるんだ」
拓海は呆れて口をあけた。
「手をつないでワクワクして、キスをしてドキドキして。そういう恋愛がしたいんだ」
「好きじゃなくても可能じゃないか? っていうか好きってどんな気持ち?」
「口では説明できないよ」
拓海はそう言いながら、先ほどまで感じていた高揚感を思い出す。
「ふうん」
結城が言った。
「拓海は今年バイトするの?」
「どうしようかな」
「海の家にしたらいいじゃないか。泳ぐの得意だろう?」
「得意だけど、一日中炎天下ってのも楽じゃないよ。自分が泳げるわけじゃないし」
「そうだね。あー」
結城が身体をのばして、寝っころがる。
「泳ぎたーい」
「俺も泳ぎたーい」
拓海も結城の横にころがった。
汚れた天井を見る。
「ねえ、天井ってそうじする?」
拓海が聞いた。
「しないよ」
「だよね。じゃあ、すっごい汚いってことだよね」
「たぶんね」
「こうやって口を開けてたら」
と言って、拓海は天井に向かって口を開ける。
「ほこりがおちて来て食べちゃってるのかな」
「お前は、本当におかしいよ」
結城が笑った。
「おかしくなんかないさ。素朴な疑問だよ」
拓海が横を向き結城を見る。
逆光で、結城の顔は影に隠れている。
それでも瞳がきらきらしていた。
「泳ぎに行こうよ。夏期講習が休みのときに」
「毎日あるんだ」
結城が不服そうに言った。
「じゃあ、一日くらいさぼったら?」
「さぼろっかな」
「一日くらいさぼったって、結城は大学にいけるよ。頭いいもん」
「だよね」
結城が頷く。
「行こう。高校最後の夏だもん」
拓海が言った。