アイスブルー(ヒカリのずっと前)



何度か意味もなく、門の方を見てしまう。
庭の草をむしりながら、鈴音は首を振った。


あれからもうずいぶんたつ。
まだ洋服を返しにこない。


「いつくるのかしら」
草を根っこから抜きながら、鈴音はそうつぶやいた。


日差しは本格的に夏になってきている。
六月も終わりに近い。


振り返り、家を見上げた。
一ヶ月をかけて、この家を磨いて来た。
手を触れると、祖母のエネルギーを感じられる気がする。
祖母が愛していたこの家。


「すずちゃん、草むしりが終わったら、アイスあげるよ」


祖母の声の響きを思い出して、鈴音は微笑んだ。


「アイス、アイス、アイスが食べたい」
節をつけて鈴音が歌う。

「蝉はまだかな」
鈴音は眉をしかめて言った。


鈴音は蝉が苦手だった。
あの大きな羽を広げて、鈴音に突進してくる。
随分昔、この庭で追いかけられた記憶があった。


「蝉はこないで、こないで、こないで」
また節を付けて歌う。


ふと玄関で電話が鳴っているのに気づいた。

「はいはい」
鈴音は軍手を脱ぎすてると、電話に走った。


「もしもし」
首にかけたタオルで汗を拭いながら電話に出る。


「鈴音?」

「母さん」

「鈴音は今日、何か予定がある?」

「特にないけど」

「じゃあ、デイサービスの方に来ていただける日だから、そちらへいくわ。渡したい物もあるし」

「そう。ありがとう。何時ごろ?」

「お昼過ぎ」

「じゃあ、ごはん用意しておく」

「いいわよ、そんなの。面倒くさい」

「いいの、料理は好きだから」

「おばあちゃんに似たのね。わかったわ、ごちそうになる」

「駅についたら電話して」

「わかったわ。また」
そういって電話が切れた。


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