アイスブルー(ヒカリのずっと前)


二人は並んで学校を出た。


「暑いな。冷たい物が食べたい」
結城が言う。

「冷たい物って?」

「かき氷」

「だって、かき氷はごはんじゃないよ」

「こんな暑くって、なんか食べられるかよ」

「暑いからこそ、なんか食べなくちゃいけないんだよ」

「ああ、おふくろみたいなこと言ってる」

「結城、最近また痩せただろう」
拓海は結城のあごから首のラインを見て、そう言った。

「どうかな、わからない」
結城がその視線に気づいて、首に手をあてた。

「食べられないの?」
拓海がたずねた。

「そんなことないよ。勉強してると、食べるの忘れちゃったりするけど」

「そういうの、よくないよ」

「わかってるよ」
結城がうるさそうに答えた。


坂の右側に生い茂る雑木林から、けたたましい蝉の声が鳴り響く。
コンクリートの道路は燃えるように熱く、拓海はすぐにへとへとになった。


「かき氷食べたいな」

「ほら」
結城が拓海の顔を見る。
「食べたいだろう?」

「ごはんを食べた後、デザートで」

「はいはい」
結城が言った。

「で、何食べる?」

「カレー、かな?」
拓海は先日鈴音にもらったカレーの刺激的な味を思い出して言った。

「カレー?」
結城がうわっという顔をする。

「夏と言えばカレーだろ?」

「夏と言えば冷や麦とか、冷やし中華とか、すいかとか、かき氷とか」
結城が言った。

「だから、すいかもかき氷もごはんじゃないよ」

「わかってるよ」
結城が言った。


二人は鈴音の家へとあがる曲がり角へとさしかかった。


拓海は思わずそちらに目を向けた。

坂の入り口は両側から木が生い茂り、まるでトンネルのようになっていた。


「涼しそう」
拓海の視線を追って、結城がそちらを見た。

「そうだね」
拓海が相づちを打つ。

「あっち、のぼったことある?」
結城が訊ねた。

「あ、うん」
拓海が答えた。

「どんな風?」

「住宅街と畑」
拓海が言った。

「へえ。駅と学校の往復しかしてなかったから、知らなかったな」
結城が髪をかきあげながら言った。


拓海は鞄の中の洋服を思い返す。
思わず立ち止まった。


「どうした?」
結城が訊ねた。

「うん、あのさ」
拓海が鞄を抱えた。
「ちょっと返したい物があって」

「返したいもの?」

「そう。この間倒れたとき、洋服を借りたんだけど、まだ返してなくて」

「それって随分前だろう?」
結城が問う。

「うん」

「早く返した方がいいんじゃない?」

「だよね。だから、今日ちょっと寄っていきたいんだ。この上に」
拓海は脇道に目をやる。

「この坂の上なの?」

「そう」
拓海が頷いた。

「じゃあ、寄ってこう」
結城は躊躇せず脇道をあがっていく。
拓海はその後ろを追った。


< 34 / 144 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop