アイスブルー(ヒカリのずっと前)
鈴音は縁側にテーブルを出した。
「何かお手伝いすることは?」
拓海が靴を脱ぎながら問いかけた。
「いいのよ、座ってて。すぐ持ってくるから」
鈴音が小走りに台所へ入って行く。
拓海は結城の隣に座って、結城の横顔をみた。
いつも通り。変わらない。
風鈴がちりんとなった。
柔らかい風が通り抜ける。
拓海はなんだか落ち着かなくて、周りをきょろきょろと見回した。
よく見ると、以前来たときよりもずっと、家が落ち着いて、生きている。
手入れされて、喜んでいるみたいだった。
鞄からカメラを出し、風鈴をとる。
青い空に、昔ながらの丸いガラスの風鈴がうつって、とてもきれいだ。
「拓海」
「何?」
拓海はカメラを手に振り返った。
一瞬、画面に光が走ったような気がしたが、すぐに消えてしまった。
拓海が驚いてカメラを下ろす。
「どうした?」
結城が問いかけた。
拓海はもう一度カメラを結城に向ける。
「なんだよ」
画面の中で結城が笑う。
光は見えない。
「なんでもないよ」
拓海はカメラを膝に下ろし、結城を見た。
黒い髪。
長いまつげ。
男性の目から見ても、とてもきれいな顔立ち。
こんな風に産まれていたら、自分の人生はもっと輝いていたに違いない。
そんなことをもう何度も思って来た。
「勝手に俺の写真集とか出すなよ」
結城が冗談めかして言う。
「売れるよ」
拓海が言った。
「当たり前だろ」
結城が言う。
「腹立つな」
拓海が頬を膨らませた。
「お前も可愛いよ」
「可愛いってなんだよ」
「飼ってみたい」
「なんだと!」
「拓海の前世は絶対に小動物だ。リスとかうさぎとか」
「やめろよ。見てろ、立派な男になってやるからな。鍛えてるんだ」
「本当?」
結城が目を大きくする。
「見て」
拓海が腕の力こぶをみせる。
「割とあるな」
「鍛えてんの」
拓海は満足そうに笑みを浮かべる。
「結城も見せろよ」
結城が腕を見せる。
「細っ」
「あんまり筋肉をつけるのは、俺の見た目を損なうから」
「勉強のしすぎだよ。もうちょっと運動しなくちゃ」
「そんな暇ないよ」