アイスブルー(ヒカリのずっと前)
二人は足を早めて、坂を上る。
息があがった。
視線をあげると、右手に運動場、その奥に灰色の校舎が見えて来た。
日差しが強くなる。
夏にはまだまだだけれど、汗ばむ陽気になってきた。
この辺りは手入れされていない薮が多い。
それにバス通りにも関わらず、自動車自体があまり通らなかった。
まっすぐ上っても、山を切り開いて作った住宅街に入って行くだけだからだ。
「おばさん、どう?」
結城が聞いてきた。
「うん、つかれてるみたい」
拓海が答える。
「だろうな。あまり接客に向いてるようには見えないし」
「そうかもしれない」
「うちのおふくろも、もっと他の仕事を紹介できたらよかったのにって言ってたよ」
「いや、そもそも夜の仕事を紹介してくれって言った時点で、こういう仕事は覚悟してたと思うよ。感謝してるって言ってた」
「うちのおふくろは、ああいう仕事のために産まれてきたような人だから、夜の仕事も嫌じゃないだろうけど。おばさんは、向いてないよ。なんで仕事を増やしたんだろうな」
「さあ、なんでだろう。俺が卒業したら働くんだから、今そんなにがんばらなくてもいいと思うけど」
拓海は首を傾げた。
「進学してほしいんじゃないか」
結城が言った。
「まさか」
拓海は笑った。
「俺、頭よくないもん」
「そうかもしれないけどさ」
「おい」
拓海が結城をにらむ。
「否定してよ」
「俺よりは悪いだろ。宿題だって自分でできないじゃないか」
「できないんじゃないよ。結城が先に終わらせたっていうから、無駄な力を使わないようにしてるだけ。省エネ」
「省エネ!」
結城が笑い出した。
「例えがおかしいよ」
「いいんだ。意味が通じるから」
拓海は憮然とした顔をする。
「お前、頭いいな」
結城が大きな目に、うっすらと涙を浮かべて言う。
「だろ?」
拓海は胸を張った。