アイスブルー(ヒカリのずっと前)
鈴音は目を開いた。
蝉がうるさい。
風鈴がなっている。
天井の模様を目で追う。
ふと目尻に手をやると、自分が泣いていたことに気づいた。
鈴音は身体を起こした。
扇風機が首を振り、鈴音の髪を舞い上げる。
「すいか、買おうかな」
鈴音は頬の涙を手の平でぬぐった。
あるはずのない時間。
あるかもしれなかった時間。
本当は声を出して泣きたかった。
鈴音は立ち上がり台所へ行った。
時計を見ると、十時半。
「お昼ごはん、どうしよう」
鈴音は鍋をのぞいた。
昨日のカレーが少し残ってる。
「でも二日連続でカレーじゃ、嫌がるだろうな」
鈴音はお鍋からカレーをタッパに出し、冷蔵庫にしまった。
朝から暑い。
鈴音は昨日のことを思い出した。
二人の少年。
鈴音は冷蔵庫から麦茶を出して、コップに注ぐ。
ダイニングテーブルにすわった。
結城。
拓海と比べると、大人びて、そして心が見えない。
「僕には立ち入らないでください」
という強いオーラ。
あの目で見られると、こちらが萎縮してしまう。
「対照的な二人。どうして、友達なんだろ」
鈴音は片肘をついた。
結城はとても目立つ。
顔立ちも、雰囲気も。
その影であの拓海という少年は、にこにこ笑っている。
二人でしゃべっているのを見たとき、結城が拓海には心を開いているように見えた。
一瞬の笑顔。
歳相応の表情。
でも鈴音が二人の側にくると、彼の顔は変わる。
歳には似合わない、
いろいろな経験をしたことのある、
大人の男に。
「さて、何つくろう」
鈴音は少しわくわくしていた。
誰かに食事を作るということ。
とても幸せなことだった。
「暑いから、さっと食べられるものがいいよね」
鈴音は飲み干したコップをシンクにおき、冷蔵庫をあけ、中をのぞいた。
「とまとが、たくさんある。そうめんもまだあったから。イタリアンそうめん?」
鈴音はつぶやいた。
「なんで、あの子をこんなに簡単に受け入れちゃったんだろう」
鈴音は首を傾げた。
「昨日も光は見えたのかな?」
離婚をした。
携帯を解約した。
引っ越しをした。
親以外、誰にも知らせなかった。
リセット。
できることなら、リセットしたかった。
「ひとりで?」
鈴音はつぶやく。
ひとりで。
そう、そのつもりで。
「早くも、人恋しくなったかな」
鈴音は笑った。
そこに「ブー」と、門のベルがなった。