アイスブルー(ヒカリのずっと前)
駅へと近づくと、人通りが多くなる。
皆、炎天下でしんどそうにしている。
「暑い」
拓海が汗をぬぐう。
「本当に暑いね」
鈴音も汗を拭った。
本屋に入ると、ひやりとした空気が二人を包んだ。
二人とも思わず笑顔になる。
「生き返る」
拓海が言った。
「やっぱりクーラーは、すずしいね」
鈴音もうれしい溜息をついた。
二人で本を探す。
茶色の本棚の林を歩いて、目当てのコーナーにたどり着いた。
「わあ、たくさんある」
拓海が声を上げた。
「どれがいいのな」
鈴音が平積みにされている一冊を手に取った。
「わかんないな」
「わかりやすくて、シンプルなものがいいんじゃないですか?」
「だよね」
鈴音は違う一冊も手にとってみる。
「文字が大きくて、それから写真とか絵がたくさん入ってるやつがいいな」
鈴音は言った。
「絵本みたいなやつですね」
「そうそう。だって、初心者なんだもの」
鈴音がそう言うと、拓海が本から顔を上げて鈴音の顔を見た。
「鈴音さん、前は何の仕事をしてたんですか?」
「医療事務」
「本当に飲食店とはまったく関係のない仕事だ」
「うん」
「医療事務のお仕事は、もうやらないんですか?」
「できればやりたくない」
鈴音は本に目を通しながら答えた。
「どうして?」
「どうしてだろ」
鈴音は顔を上げて困った顔をした。
「全く違った自分になりたいのかな」
「へえ」
拓海は不思議そうな顔をして、再び本に視線を向けた。
鈴音は拓海をちらりと見た。
キャップのつばで、顔の半分が隠れている。
頬のあたりに黒髪が見えた。
視線に気づいて、少し顔を上げてつばの下から鈴音を見る。
アーモンドの形の、きれいな瞳。
「じゃあ、コレ」
拓海が一冊を差し出す。
「わかりやすいですよ」
「じゃあ、ソレ」
鈴音は素直に受け取った。
「ああ、もうあっついところに出なくちゃ」
鈴音は会計をしながら拓海に言った。
「僕、別に暑いところ嫌いじゃないです」
「アイス食べよっか。ガリガリくん」
「いいですね」
二人は店を出て、斜め前のコンビニで、ガリガリくんを二本買った。
食べながら坂をあがる。
「今日のお昼は、かわりそうめんにしようと思うけど」
「たのしみです」
拓海は食べながら「あ」と声をあげた。
「何?」
鈴音が覗き込む。
「アタリ」
拓海は棒を鈴音に見せて、ニコっと笑った。