アイスブルー(ヒカリのずっと前)
風鈴がなる。
午後の日差しは強いが、風が通るのでそれほど暑くはない。
テーブルの上に本を広げて、拓海は肘をついた。
鈴音の作る料理は、少し変わっていて、でも優しくて懐かしい味。
台所から食器を片付ける音がした。
青い光の向こうで、鈴音は楽しそうに笑う。
冗談を言ったり、少しすねたり、ころころと表情を変える。
でも拓海は、鈴音の光のせいで、彼女が悲しげに見える。
「いいな、アタリ」
鈴音はうらやましそうに言った。
「あげますよ」
「いいの? やった」
鈴音は棒を手に笑う。
拓海の胸にうまれる、波のようで、でも暖かで、そして悲しい歌を聴いたときのような、その感情。
どうやって表現したらいいかわからない。
これまで経験したことがない。
「あの人のこと、好きなの?」
結城が訊ねたのを思い出した。
「好き?」
拓海は考える。
「ちょっと違う」
拓海はこれまで何人かの女の子を好きになった。
心臓がとくとくと鳴って、顔が赤くなる。
わざと冷たくしたり、わざとからかったり。
「そういうんじゃ、ない。ぜったい違う」
拓海はページをめくりながらぼんやりと考えた。