アイスブルー(ヒカリのずっと前)



夏。


いつも結城といた。
小学校のプールが開放されると、二人は一日中水につかる。
公園の蝉をとって、虫かごいっぱいに入れる。
夏祭りではかき氷を食べ、花火を買って来て、団地前のちょっとしたスペースで遊んだ。


そのうち結城目当ての女の子が来るようになった。


「ねえ、もうちょっと優しくしてあげたら?」
拓海は結城に言った。



コンクリートの階段は、太陽の熱をたくさん浴びて、陽がおちたこの時間でも暖かい。


「どうして?」
線香花火を手に、結城が訊ねる。

「彼女達、結城のことが好きなんだよ」
拓海は階段から立ち上がり、火の消えた花火をバケツに捨てた。

「違うよ」
結城はちらりと拓海を見て、軽く笑う。

「違わないよ」
拓海はもう一本花火に火をつける。



ぱちぱちぱち、と小さな音をたてて、オレンジの光がはねる。



拓海は火の玉を落とさぬように、そっと結城の隣に戻り、階段に座る。



「俺は好きじゃない」
結城の顔に、オレンジの光が反射する。

揺らめく光で、表情が違って見えた。


「結城がもうちょっと優しかったら、もっと女の子にもてるのにな」
拓海は少し口を尖らした。

「もてる必要ある?」
結城の火がおちた。

「もてた方がいいに決まってる」
拓海は立ち上がる結城の背中を見て、そう言った。

「でも大切にできるのは、一人だけだ」
結城はこちらを向かず、団地内の暗闇を見つめている。



拓海は花火からの弱い光に照らされた、結城のその後ろ姿を見て
「うん、そうだね」と言った。


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