アイスブルー(ヒカリのずっと前)
五
夏。
いつも結城といた。
小学校のプールが開放されると、二人は一日中水につかる。
公園の蝉をとって、虫かごいっぱいに入れる。
夏祭りではかき氷を食べ、花火を買って来て、団地前のちょっとしたスペースで遊んだ。
そのうち結城目当ての女の子が来るようになった。
「ねえ、もうちょっと優しくしてあげたら?」
拓海は結城に言った。
コンクリートの階段は、太陽の熱をたくさん浴びて、陽がおちたこの時間でも暖かい。
「どうして?」
線香花火を手に、結城が訊ねる。
「彼女達、結城のことが好きなんだよ」
拓海は階段から立ち上がり、火の消えた花火をバケツに捨てた。
「違うよ」
結城はちらりと拓海を見て、軽く笑う。
「違わないよ」
拓海はもう一本花火に火をつける。
ぱちぱちぱち、と小さな音をたてて、オレンジの光がはねる。
拓海は火の玉を落とさぬように、そっと結城の隣に戻り、階段に座る。
「俺は好きじゃない」
結城の顔に、オレンジの光が反射する。
揺らめく光で、表情が違って見えた。
「結城がもうちょっと優しかったら、もっと女の子にもてるのにな」
拓海は少し口を尖らした。
「もてる必要ある?」
結城の火がおちた。
「もてた方がいいに決まってる」
拓海は立ち上がる結城の背中を見て、そう言った。
「でも大切にできるのは、一人だけだ」
結城はこちらを向かず、団地内の暗闇を見つめている。
拓海は花火からの弱い光に照らされた、結城のその後ろ姿を見て
「うん、そうだね」と言った。