アイスブルー(ヒカリのずっと前)
近所で一番安いスーパーは、商品が通路にまで積み上げられていて、歩きづらい。
でも駅前のスーパーよりも一割は安い。
昔から買い物はここですることに決めていた。
母親は髪を一つにまとめ、Tシャツに緩いジーンズという出で立ち。
化粧はせず、太陽の下にでると、顔色が悪いように見えた。
拓海は黄色いかごをもって、母親の後ろからついていく。
「ぶたひき肉と、にら。キャベツも」
母親はつぎつぎとかごに商品を入れて行く。
「すごい量だよ。餃子いくつつくるの?」
拓海は笑いながら聞いた。
「だって、結城くんの分もだし。冷凍しておけば、おかずになるじゃない?」
「そうだね」
拓海はうなずいた。
母親はいつも、すごい量の餃子をつくる。
そして何日も餃子を食べ続けるのだ。
「ねえ、なんで昔から餃子ばっかり?」
拓海は母親の後頭部を見ながらたずねた。
「餃子ばっかりじゃないわよ。他にもいろいろつくった」
「そうかな」
「そうよ、野菜炒めとかね」
「ああ、確かに」
「でも餃子が一番、あなたが食べてくれたから」
母親が振り向いて微笑む。
「おいしいもん」
「ありがとう」
母親はそういうと、ちょっと改まって拓海を見た。
「どうしたの?」
拓海は気まずくなって、母親から視線をそらした。
「大きくなったね」
「なんだよ、突然」
「この狭い通路を、あなたが走ってね。母さんは見失わないように、いつも落ち着かなかったって、思い出したの」
母親は再び前を向き、歩き出す。
拓海は後ろを着いて行く。
店内は空調がきいて、涼しい。
天井は低く、両脇に備えられた冷蔵の棚から、ぶうんという音が聞こえた。
「ほら、アイス」
母親が棚を指差す。
「何がいいの?」
「ガリガリくん」
拓海が一本取り出した。
「あなたはよくアタリを出したわね」
「今も出せるよ」
拓海は得意そうに言った。
「運のいい子。本当にあなたは運がいいわ」
「そうかな。そう思ったことはないけど」
拓海が首を傾げる。
母親はあいまいに微笑むとレジに向かった。
「あ、そうだ。ケーキ買う?」
会計した後、母親が言った。
「いらないよ。アイス食べるし。ケーキを食べるなら餃子を食べたい」
母親は笑って
「じゃあ、たくさん作らなくちゃね」と言った。