アイスブルー(ヒカリのずっと前)
「久しぶり」
拓海は玄関を入ると手をあげた。
「まだ一週間ぐらいしかたってないだろ?」
テーブルにあぐらをかいて座っていた結城が、ちらりと目を上げた。
「こんなに会わないの、初めてじゃない?」
拓海は餃子の皿をテーブルにのせる。
「うまそう」
結城は皿を見て
「こんなちゃんとした食事は、それこそ久しぶりだ」と言った。
「食欲ないの?」
「いや、なんか忘れちゃうんだよね」
「ちゃんと食べた方がいいよ」
「知ってるよ、そんなこと」
結城は叱られた子供のように、首をすくめた。
窓のカーテンが夜風に揺れてる。
カーテンの隙間から、団地内の街灯がちらりとみえた。
結城は長めの髪を頭のてっぺんで結ぶ。
「前髪が鬱陶しい」
「変な髪型」
拓海は笑った。
「髪を切りに行く暇なんかないんだよ」
額を見せると、結城は女性のように見えた。
「ごはんあったかな?」
結城が立ち上がって、冷凍庫をのぞく。
「それも持ってくればよかったな」
拓海はそう声をかけた。
「いや、大丈夫。ある」
結城はきれいに包まれた冷凍されたごはんを、回転式の電子レンジに入れる。
「なんか飲む?」
「何があるの?」
「麦茶と、水と、あとリンゴジュース。俺、リンゴ飲もう」
結城はそう言って、冷蔵庫からパックを取り出す。
「ご飯を食べながら、リンゴジュース飲むの? 気持ち悪い」
拓海は顔をしかめた。
「俺の勝手だろう。何飲む?」
「じゃあ、リンゴジュース」
「まねっこ」
「甘いものが欲しいだけ。うるさいよ」
拓海は笑って言い返した。
チンと軽い音がして、ごはんが解凍された。
結城は茶碗に、コロンとご飯をのっける。
「ほぐせば?」
拓海はお団子のようなご飯をみて言った。
「今からやるよ。いちいちおふくろみたいなこと言うなよ」
結城はリンゴジュースを半分ほど飲むと、餃子を食べ始めた。