アイスブルー(ヒカリのずっと前)
「やっぱり、おばさんの餃子はうまいな。なんか懐かしい」
「そうだね、母さんが作ったの、久しぶりだと思う」
「今、おばさん何してんの?」
「下でテレビ見てるよ。でも多分、もううたた寝してるな」
「疲れてるんだな」
「うん、働きすぎだよ」
拓海は「お金の心配はいらない」と言った母親の顔を思い出した。
「どうした?」
結城が拓海の顔を見て、首を少しひねる。
「ううん、なんでもない。予備校はどう?」
拓海は訊ねた。
「どうって?」
「大変とか、疲れるとか、あるだろう?」
「大変で、疲れる」
結城が答えた。
「なんだよ、それ」
「だって他に言いようがないよ」
結城が笑った。
「毎日勉強してるってだけ。取り立てて報告するような、目新しことはないし」
「ふうん」
拓海はコップに口をつけた。
「どこ、受けるの?」
「○○大学」
「ほんと? 頭いい」
「俺、頭いいもん。知らなかったの?」
「いや、知ってたけど。でも、そんな有名大学……なんで俺と一緒の高校に通ってるの?」
結城はにやっと笑うと
「拓海が寂しがると思って」と言った。
「馬鹿いうなよ。で、何学部?」拓海が訊ねた。
「多分、理工学部」
「わあ、本当に未知の世界だ」
拓海は感嘆した。
「結城が知らない人みたいになるな」
「なんでさ」
「だって、エリートコースだろう?」
「大学に入るからって、エリートとは限らないよ。だいたい、未だになんで勉強しなくちゃならないか、わかんないんだ」
「嫌なの?」
「別に嫌いじゃないけど。大企業に入りたいわけでも、研究に人生を捧げたいわけでもないし。今この歳で、自分が何をしたいのかわかってる人なんて少ないんじゃないか?」
「だよね」
拓海はテーブルに肘をついて、頷いた。