アイスブルー(ヒカリのずっと前)
六
扇風機が首を振るたび、ぶううんという音が、いったりきたり。
いったいこの庭に何匹の蝉がいるのだろう、と思うほどの蝉の大合唱。
「あつい」
鈴音は縁側の板張りにごろんと横になった。
空は真っ青。
雲は真っ白。
汗で身体中がべたべたして気持ち悪いけれど、今シャワーを浴びるわけにいかない。
拓海がもうすぐやってくるからだ。
くるりと向きを変えて、うつぶせになる。
指先にさわった紙切れを引き寄せて、目を通す。
「意外と簡単に、この食品衛生責任者ってとれるのね」
鈴音はむき出しの足がじとじとするのが嫌で、足をばたばたさせた。
昨日、拓海はこなかった。
どんな用事があったんだろう。
「お給料払ってないんだから、何してたかなんて聞かないでおこうっと。ああ、暑い。」
すると門のところで気配がした。
鈴音が目をあげると、拓海が庭に入ってくるところだった。
Tシャツに、短パン、サンダル。オレンジのキャップをかぶってる。
「おはよう」
鈴音は腹這いのまま、上半身をささえて手をあげた。
「おはようございます」
拓海がぺこんと頭をさげる。
「昨日はすみませんでした」
「別にいいのよ。ボランティアで来てくれてるんだから」
鈴音は身体を起こした。
拓海が庭先から縁側にあがる。
「暑いですね」
「本当に。麦茶しかないけど飲む?」
「ありがとうございます」
拓海は帽子をとって頭をくしゃくしゃっとした。