アイスブルー(ヒカリのずっと前)
二人は周りを見ながらゆっくりと歩いた。
大きな白い雲と同じぐらいの速度。
「鈴音さんは、カフェにどんな人が来てほしいですか? 子連れや高校生はオッケー?」
「来るもの拒まず」
「でもお年寄りと高校生だと、ニーズが違いますよ」
「そうね。うーん。正直、わからないな」
「どんな人でも居心地がいいっていうのは、作りづらいです。子供が来たら、静かに落ち着いて食事したい人には嫌だろうし。おじいさんおばあさんばっかりだったら、若い人は入ってきません」
「おっしゃる通り。難しいんだね」
住宅街が見えて来た。
同じ形の家が並ぶ。
あそこに、あの人が住んでいた。
今もまだ、あそこに住んでるんだろうか?
鈴音は首を振って、余計な考えを追い払った。
いるわけがない。
あの後、とてもこの場所に居続けることはできなかったのだから。
鈴音はふと視線にきづいて、横を見た。
拓海が見ていた。
何を見てるのだろう。
また光を見てるのだろうか。
不思議な表情。
「何が見えるの?」
鈴音は思わず口にだした。
「え?」
「わたしの顔に何か見えるの?」
「あ、いや」
拓海は首を振って、下を向いた。
鈴音はなんだかもやもやして、足を速めた。
拓海が後ろから小走りでついてくる。
まるで海外の小さな町を再現したような、美しい住宅街だったこの場所は、古びていた。
同じ形の玄関。
同じ形の屋根。
同じ形の窓。
表札だけが違う。
碁盤の目のような通りに、いつも迷ってしまった。
たしかこの角を右に折れる。するとあの人の家。
鈴音は思わず表札を確認する。
まだいる。
でもおそらく彼の両親だ。