アイスブルー(ヒカリのずっと前)
雲が流れる。
空が高い。
あの空みたいな色。
いや、もっと冷たくて、
そう
氷河のような、白く光る青。
拓海は大きな荷物を抱えた女性の後ろ姿を思い返した。
振り返り、怪訝そうな顔をしている。
肩までの黒髪。
化粧はほとんどしていないように見えた。
グレーのパーカーに、黒いジーンズ。
その胸元にはっきりと見えた、青い光。
彼女の鼓動に呼応するように、揺らいでいた。
自分の目で光を見ることができたのは、初めてだった。
拓海は机の脇にかけた鞄から、小さなデジタルカメラを取り出す。
電源を入れて、結城の背中に向ける。
寝息で上下している。
光は見えない。
ガラリと扉が開いて、教室に学生が一人入って来た。
「おお、拓海早いな」
その学生は軽く手をあげた。
「おはよう」
拓海も答えながら、デジタルカメラの画面を見つめる。
その学生の胸元に光。
彼の光は、薄いオレンジだ。
「なんだよ。写真なんか撮るなよ。事務所を通してくれ」
「何いってんだ。お前なんか撮らないよ」
拓海はそう言って、カメラをおろす。
肉眼では見えない、彼のオレンジの光。
拓海はカメラの電源を切って、鞄にしまう。
「彼女だけだ、肉眼で見えるのは」
拓海は小さな声でつぶやいた。