アイスブルー(ヒカリのずっと前)
「午後から中古家具のお店にいく?」
鈴音は拓海に声をかけた。
「はい」
拓海は頷いたが、どこか上の空だった。
風鈴が絶え間なく鳴っている。
空を見上げると、かなりの早さで白い雲が動いている。
「荒れてくるのかしら?」
鈴音は首を傾げた。
「知ってる?」
拓海は首を振った。
「テレビを見ないのも考えものだわ。拓海くん、携帯で気象情報見られる?」
「見られますよ」
畳の上に足を投げ出していた拓海が、ズボンのポケットから携帯を出した。
手早く操作をしてから
「ああ、今夜、暴風と雷雨って書いてあります」と拓海が答えた。
「やっぱり。今日は早く帰らなくちゃね」
鈴音は言った。
「今からでかける?」
「はい」
拓海はまたぼんやりとした表情で答える。
鈴音はそんな拓海を見て、
思わず「何かあった?」と声をかけた。
「え?」
「なんか、ぼんやりしてるから」
「すいません。」
拓海が目を伏せた。
「怒ってるんじゃないよ。そうじゃなくて……」
鈴音は慌てて手を振った。
「ちょっと心配で」
鈴音がそう言うとちらりと拓海は鈴音を見て、それからいつも通りの幼い笑顔を見せた。
「ありがとうございます」
拓海が言った。
「たいしたことじゃないです。なんかちょっと、なんて言うか、自分の変化に追いつけないっていうか」
「?」
「鈴音さんの光がみえるっていったでしょ?」
「うん」
「今も見える。ほら……」拓海は身をのりだして、鈴音の胸元に手をかざす。
「自分の手も青く染まる。ゆらゆらして、鈴音さんの鼓動のように、規則正しくきらきらしてる。」
鈴音は思わず自分の胸元をみる。
「でも、他の人のは見えないんです。カメラを通さないと。でも……最近、おかしな映像が見える」
「おかしな映像?」
「本当のことかどうかはわからないんだけど、過去の映像なのかな? なんだろう。見えるんです。夢みたいに。目を開けて見ている景色とは別のところで、違うものが見える」
「なにそれ?」
鈴音は訳がわからず、思わず口にだした。
「あはは」
拓海が笑う。
「なんでしょうね。僕もわからない。いろんなものが見えて、ちょっと嫌気がさしてきたんです」
「何を見たの?」
「うーん、いろいろ」
「わたしのも見た?」
鈴音がそう言うと拓海は黙って鈴音を見た。
しばらく長い時間、じっとその瞳で見つめられる。
拓海の瞳の中に、自分がいるのがわかる。
拓海が首をかしげ、少し笑みを浮かべる。
それから「今は見えないな」と言った。
「前はあったんだ」と鈴音が言うと
「本当は確認したいけど。でももし本当のことで、触れられたくないところだったら、気まずいでしょう?」
と拓海が答えた。
鈴音は拓海の冗談なのか本気なのかわからないその顔を見て
「そうね、聞かないで。怖いから」と言った。
拓海がどこか傷ついたような表情をしてから
「ききません」と静かに答えた。
不思議な子。
本当なのか、嘘なのか。
でも拓海の言葉に嫌な気持ちはしない。
だまされてるという思いもない。
だいたい、自分をだましてなんの得があるのか。