アイスブルー(ヒカリのずっと前)
「暑いですね」
気分を切り替えるように拓海が言った。
「うん、そうね」
鈴音も声を明るく答えた。
「大雨が降るなら、わざわざ外出するのも面倒ですね。ここでできることしましょうか」
拓海が言った。
「そうだね。それで今日は早く帰ってね」
「はい」
拓海はそう言うと笑顔を浮かべた。
「あ、そうだ」
鈴音が立ち上がる。
「すいか買ったんだ。冷えてるよ。食べる?」
「食べる」
拓海が子供のように即答する。
鈴音は笑いながら台所へ入った。
「手伝って」
鈴音が声をかける。
拓海が入って来て「わあ」と歓声をあげた。
「おっきいですね」
「そう、冷蔵庫に入らなくて。たらいに氷をいれて冷やしたの」
鈴音はたらいの中のすいかを持ち上げようとした。
「あ、やります」
拓海がそう言って鈴音の横から手を差し出した。
鈴音は縁側に新聞を広げる。
拓海がその上にすいかを置いた。
日差しが、まんまるで濃い緑色をしたすいかを照らす。
鈴音は包丁を持って来て、切り分けた。
みずみずしいすいかのジュースが、新聞に溢れ出す。
「見てるだけで、涼しくなってきた」
拓海が言った。
「だね」
鈴音も言う。
二人で縁側に座り、風にあたりながらすいかを食べた。
程よく冷えていて、甘い。
「すいかジュースってなんでないんだろう」
拓海が不思議そうに言う。
「ジュースだけ飲んでもおいしくないんじゃない?」
「おいしいですよ」
拓海がスイカをほおばり答えた。
「実があって、こうやって暑い中縁側に座って食べるからおいしいのよ。缶を開けてジュースだけ飲むんじゃ、おいしさが半減する」
「それはそうかもしれないけど。種がじゃま」
「種無しすいかってあるよね」
「そうなんですか?」
「知らないの?」
「スーパーに売ってます?」
「そういえば最近見かけないな」
「でしょ? 僕も見たことないもん」
「じゃあ、昔だけかな」
「何年前の話しです?」
「ええ? そうね……二十年前ぐらい」
「僕産まれてない」
「そうだね」
鈴音は思わず頬を膨らました。