アイスブルー(ヒカリのずっと前)
「ねえ、鈴音さんって歳いくつ?」
拓海が次のすいかに手を出しながら訊ねた。

「え? 聞くの?」

「聞いちゃだめ?」

「だめ!」

「なんで?」

「微妙な問題だし」

「そうなの? 女の人って、変なこと気にするんだな」

「そうかな?」

「そうでしょ? 若いからいいってもんじゃないし、若くないからいいってもんでもない」

「うーん……三十四」

「あ! 母親と一緒だ」
拓海がうれしそうに笑った。

「おかあさん!」
その予想通りの答えに、鈴音は声が大きくなる。

「うちの親、若いから。言ったでしょ?」
と拓海がにまっと笑う。

「……拓海君ってさ……」

「なんです?」

「そんな、小動物みたいな、純真無垢な顔をしてさ、本当はすごいイジワルでしょ」

「ええ? そんなことないですよ」

「だってうれしそうな顔したし」

「なんで? 母親と一緒の年齢だって、僕は別にかまわない」

「ま、そうね」
鈴音は思い直して、少し恥ずかしくなった。


拓海がすいかの種を地面に落とす。


「ねえ、新聞の上に種出してよ。すいかが生えちゃう」

「すいかが生える? 食べ放題だ」
拓海が足をふらふらさせながら言った。
「育てようよ」

「ここじゃ、縁側にあがるときに邪魔だから」
鈴音が言った。

「じゃあ、あっちの日当りのいいところは?」
拓海が庭の隅をさす。

「いいよ」

「やった」
拓海はくちをもごもごさせて、種をえいっと飛ばした。

「あ、おしい。日陰にはいった」鈴音が言うと
「じゃあ、鈴音さんやってみて」と拓海が言った。


鈴音もえいっと種を飛ばす。
「やった。いいところにおちた」

「僕も」
拓海もえいっと飛ばす。

「うまい」

「来年、一緒に収穫しようよ」
拓海はそういうと、ニコっと笑った。


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