アイスブルー(ヒカリのずっと前)
初めてカメラを持ったのは、小学校一年のとき。
母親が拓海の運動会のために、ディスカウントショップから買って来た。
拓海は母親の目を盗んで、そのカメラを手にもって外にでた。
いろんなものを写してみたかった。
空。
木々。
枯れ葉。
散歩をしている犬や、ベンチに座る人々。
年老いた夫婦にカメラを向けたとき、拓海は気づいた。
カメラの液晶画面に、不思議な光がうつっていることを。
人の心臓のあたり。
鼓動にあわせて、光が脈打っているように見えた。
「きれいだ」
拓海は思った。
「母さんの色は、どんな色だろう」
拓海は母親にカメラを向けたが、不思議なことに光は見えなかった。
結城の胸元にも、何も見えない。
「母さん、これ、見える?」
拓海は母親に液晶画面を見せた。
「何も見えないけど……何?」
二人でスーパーに買い物に行ったとき、拓海は訊ねてみたが、母親は怪訝な顔をするだけだった。
「あの、これ、光が……」
拓海が説明しようとすると、母親は眉間に皺を寄せて不安そうな顔をした。
「拓海には、何か見えるの?」
母親は確認するように訊ねた。
「ううん、なんでもないよ。気のせい」
拓海がそう答えると、母親はほっとしたような顔をした。
それ以来、カメラを通して見えるこの光は、他の誰にも言ってはならないことだとわかった。
光が見える人と、見えない人がいる。
特に赤ちゃんや、お年寄りにはよく見えた。
もちろん自分と同年代の人にも見えるときはあったが、見えないことも多かった。
色が見えるのは、カメラを構えたそのときだけ。
写真を撮り、後からそのデータを確認しても、光は一切写っていなかった。
今日初めて、肉眼でその光を見たのだ。
白くて、
青くて、
冷たい光。
なぜ彼女のだけ見えるのか。
彼女は誰なのか。
どんな人なのか。
自分と関係があるのか、ないのか。