アイスブルー(ヒカリのずっと前)


「なんか突然暗くなった」


台所で夕飯の支度をしていた鈴音は、びっくりして声をあげた。


部屋で開業準備の本を読んでいた拓海が
「ふってきたよ」と大きな声を出した。


鈴音は拓海の横に行き、すごい勢いで降る雨をあぜんとして見つめた。


「風もすごい。雨が吹き込んでくる。雨戸締めなくちゃ」


二人はあわてて雨戸を閉めた。
すでに庭は池のような状態になっている。


「すいかの種も流れちゃったかな」
鈴音は少し残念な気持ちになった。

「僕、二階閉めてきます」
拓海が階段を駆け上がった。

「雨で濡れちゃった」
鈴音はぞうきんを出して、縁側をふく。


拓海が階段を下りてきた。

「上はどう?」
鈴音が訊ねた。

「畳がちょっと濡れちゃいました」
拓海の腕も少し濡れている。


鈴音は洗面所からタオルを持ってくると、拓海に手渡した。


外からは怖いくらいの雨の音。
雨戸を叩き、屋根を叩き、このまま家ごと流されてしまうかのような豪雨。


「びっくりした」
鈴音が畳の上にへたり込んだ。

「あっという間でしたね」
拓海もタオルで口元を覆いながら、鈴音の横に並んで座った。


雨戸の隙間が、キラリと光る。


「あ、カミナリ」
と拓海が言ったとたん、
すごい音が鳴り響いた。

「カミナリ、今真上にいるんじゃない?」
鈴音が首をすくめた。

「かもしれないけど、大丈夫じゃないですか?」

「だよね」
鈴音はうんうんと頷いた。

「こうなる前に帰らなくちゃいけなかったのに」

「雨がやんだら帰ります。」

「じゃあ、ごはん食べて止むのを待っとこうか」
鈴音が言った。


< 70 / 144 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop