アイスブルー(ヒカリのずっと前)
「眠れないの?」
背後から突然声をかけられて、拓海は思わず「わ!」と声をあげた。
「ああ、ごめん」
鈴音が笑いながら入って来た。
ストライプのパジャマ。
鈴音は見たことのない眼鏡をかけていた。
「起こしちゃいましたか?」
拓海は言った。
「わたしも眠れなくて」
鈴音は拓海の隣にきて
「わたしもお茶のむ」と言った。
拓海は新しいグラスに麦茶をそそぐ。
鈴音は「ありがとう」と言って、グラスに口を付けた。
「雨、止んだみたいだね」
鈴音が言った。
「明日は電車が動きますね」
拓海も言った。
「お母さん、心配されてなかった?」
「いえ、大丈夫です。母も働いてるので、今夜は帰りません」
「そうなの?」
「はい。最近、夜の仕事も始めたので」
「そう……」
鈴音はそう言うと、しばらく無言になった。
拓海は何を考えているかわからない鈴音の横顔を見ながら
「星がきっときれいですよ」と言った。
「星?」
「そう、雨が降ったから、空気がきれいだし」
「そうか」
鈴音はそう言うと、コップを置いて居間に出て行った。
締め切った雨戸を開く。
ガタガタという音をさせて、雨戸が開いた。
ひんやりとした空気が、部屋の中に流れ込んでくる。
「寒い」
鈴音がむき出しの腕をさする。
拓海は雨戸を開けるのを手伝った。
二人で縁側に座り込む。
鈴音は膝を抱えて、あごを膝の上にのせた。
月が出ていた。
青白い光。
鈴音の胸元の光と似ていた。
拓海は鈴音の隣で、月の光が鈴音の髪や頬を照らすのを見る。
眼鏡のせいで、別人のようだ。
「本当だ。星がきれい」
鈴音が空を見上げ言う。
「鈴音さん、星座とか詳しい?」
「ううん、ぜんぜん」
鈴音が笑みを浮かべる。
「拓海くんは?」
「ぜんぜん」
拓海は首を振った。
「不思議だね、あの光はもうずうっと前に放たれた光なんだよね」
「うん」
「見ているこの星の中に、宇宙人が住んでる星があるかもしれない。それでこっちを観察してるの」
「怖いこといいますね」
「ええ? 怖い? ロマンだよ」
鈴音が眼鏡をちょっと触る。
「だって、連れ去られて実験される」
拓海が言った。
「それが本当かどうかわからないじゃない」
「わかんないけど、きっとそう」
拓海がきっぱりと言い切った。
「変なの」
鈴音が笑った。