アイスブルー(ヒカリのずっと前)
八
夏の時間は過ぎて行く。
蝉の鳴き声が、心なしか少なくなったように思う。
母親への返事はできてない。
自分が進学する。
そんなこと考えてもみなかったから。
でも母親が望んでる。
それなら進学してもいいだろうか。
拓海は道を歩きながら、ぼんやりと考えた。
ふと前を見ると、道の先に結城の背中が見えた。
ブルーのTシャツに短パン。
長くなった髪を後ろでしっぽのように縛っている。
首には以前彫ったというタトゥーが小さく見えた。
そして細い。
一段と細くなってる。
腕も細くて、腰も薄い。
拓海はなんとなく話しかけられなくて、目に入ったコンビニに飛び込み、結城が行ってしまうのを待った。
「久しぶりって声をかければよかった」
しばらくして拓海はそう思ったが、
結局話しかけるのを躊躇する自分がいるのに気づいた。
結城とこんなに話していないのは、初めてだった。
幼い頃から、ほぼ毎日一緒にいて、笑って、泣いて。
結城のすべてを知っていると言ってもいいと思っていたけれど、結局ほとんど知らないのかもしれないと、拓海はそんな風に思う。
拓海は日に日に、いろんなことに敏感になっている。
「本当に占い師にでもなれそう」
拓海は自嘲ぎみに言った。
いつもなら結城に相談している。
とっくに結城にすべてを話している。
でも今回は結城に相談できない。
結城に相談するということは、拓海の秘密をしゃべるということだから。
人とはちょっと違う。
今まで黙っていた、秘密のこと。
結城には変な顔をされるだろう。
もしかしたら距離をおかれるかもしれない。
結城はとても現実的で、理論的。
拓海は頭がおかしくなったと思われて、病院に連れて行かれるかもしれない。
「でも病院にいった方がいいかもしれないな」
拓海はコンビニから出ながらそう言った。