アイスブルー(ヒカリのずっと前)
暑い。
でも暑さの中に、なぜか秋の気配がする。
出てくる汗の量も違うような気がした。
道を駅の方向に進む。
コンビニで買ったミネラルウォーターの栓をひねる。
そして前を向くと、結城が駅にあがる階段の下に座っているのが見えた。
結城がこちらを向く。
拓海は思わず立ち止まった。
結城が立ち上がる。
軽く手を上げた。
もしかしたら拓海が後ろにいるのに、気づいていたのかもしれない。
「久しぶり」
拓海も手をあげて応じた。
「しばらく見ないうちに、ちっちゃくなっちゃったな」
結城が拓海と並ぶとそう言った。
「お前……やせた」
拓海は結城の細い肩を見ながら、そう言った。
「暑いから、食欲なくて」
結城はなんでもないというように、笑った。
二人で駅の階段を上がる。
改札を通り抜け、ホームにあがる。
「今日は、ナツキちゃん一緒じゃないの?」
拓海は聞いた。
「ナツキ?」
「うん。前一緒にいただろ?」
「あいつは、短期コースだからもう終わった」
結城が言う。
ホームの風は心地よく、二人の間を通り抜ける。
「あー、気持ちいい」
結城が目を細める。
痩せたからか、結城のほお骨が目立った。
「毎日通ってるの?」
結城が拓海に訊ねた。
「うん」
拓海が頷く。
「おいしいもの毎日食べてるのか?」
「うん」
「いいな、それ」
結城が言った。
「結城は合格できそう?」
「たぶん」
「へえ。すごい自信だな」
「そうなれるよう努力してるから」
「……夏が終わっちゃうね」
拓海は思わずそう言った。
「海、行ってない」
結城が言う。
「一日だけ、講習さぼんなよ」
拓海が言った。
「そうだね」
結城は心ここにあらずというように答えた。
電車がホームに入ってくる。
風が渦を巻いて、夏の埃を舞い上げる。
「……なよ」
結城が言った。
「え? 何?」
電車の音で、結城の声がかき消される。
結城がちょっと待って、というように手を上げる。
音を立てて電車の扉が開く。
車両内の冷気が流れ出す。
ちょっと肌寒いぐらいだ。