アイスブルー(ヒカリのずっと前)
コーヒーを買って帰ってくると、そろそろ十二時になっていた。
坂道をあがると、家の前で工事の人たちが廃材をトラックに積み込んでいた。
「おつかれさまです」
拓海は声をかけた。
タオルで汗をふきながら、
男性は「おつかれさまです」と会釈を返した。
「コレ、どうぞ」
拓海はレジ袋に入ったコーヒー缶を手渡す。
「すいません」
「お昼をとって休憩してください」
拓海は言った。
「はい。ありがとうございます」
作業員はお互いに頷き合うと、トラック近くの日陰に移動した。
「中で、休んでください」拓海が手で促すと、
作業員は「ここでいいです」と首を振って遠慮した。
拓海は強くすすめることはやめて、中に入った。
「鈴音さん、ただいま」
拓海は未だ縁側に座り込んでいる鈴音を見てそう声をかけた。
けれど身動き一つしない。
拓海は鈴音に近寄り、顔を覗き込んだ。
鈴音はすっかり眠っていた。
穏やかな顔だ。
気温は高いが、風鈴の音と、優しい風が心地よい。
「何かかけた方がいいかな」
拓海はそう言うと、縁側からあがって、祖母の部屋へと入った。
少し薄暗い部屋の中は、ひんやりとしていて、畳の匂いが強かった。
拓海は色あせた襖をあけ、中からタオルケットを取り出した。
襖を締め、左を見ると、足踏みミシン、それから仏壇があった。
仏壇の扉は締められている。
どうしてそんな気になったのかわからないが、拓海は仏壇の扉を開けた。
線香の香りが漂う。
位牌が二つ。
ところどころに灰がおちている。
拓海は仏壇前の座布団に座り、灰を指でなでた。
縁側の風鈴が、小さく鳴っている。
拓海はマッチを手に取り、する。
ぽっと、オレンジ色の光が、薄暗い部屋に浮かび上がる。
白いろうそくに灯をともし、線香に火をつけた。
煙が、ゆらゆらと天井にあがる。
強い香りが拓海を包む。
拓海は手を合わせて、目を閉じた。
何を言ったらいいかわからない。
ただ、鈴音の祖母の面影を思い浮かべた。
目を開けて、手であおいでろうそくの火を消す。
拓海は立ち上がろうとして、ふと小さな紙が置いてあるのに気づいた。