アイスブルー(ヒカリのずっと前)
金色の観音像。
美しい顔で手を合わせている。
その足下の裏側に、白い、小さな紙が置かれている。
思わず拓海はその紙を手にとる。
古い。
茶色く変色している。
拓海はその紙をひらいた。
「平成五年十月十日 こどもの命日」
拓海ははっとして、紙を落とした。
紙をつまんでいた指先から、痺れるような感覚。
フラッシュ映像が、目の前に現れる。
映像のひとつひとつを認識している暇はない。
立て続けに映像があらわれる。
拓海は必死に目をこすり、頭を振った。
けれどその映像がとまることはない。
鈴音、
母親、
そして祖母の顔があらわれる。
泣いている。
みんな泣いてる。
鈴音は制服を着ている。
眉をつりあげ、口をしばり、堪えている。
鈴音が何か言った。
何て言ったんだ?
拓海は全身から汗が吹き出てくるのを感じた。
力が入らない。
「何これ」
拓海は崩れおちそうになるのを、腕で支えて必死に耐える。
鈴音がまた何か言った。
「何?」
拓海は眉間に皺を寄せて、耳を澄ます。
鈴音がまた言う。
今度は声が聞こえた。
「いらない」
震える声。
鈴音がお腹を押さえる。
「いらない、こんな子。いらない」
その声を聞いたとたん、拓海の胸に激痛が走った。
あまりの痛みに息が詰まる。
「い、いた……」
拓海は胸を押さえて倒れ込んだ。
震える。
心臓だけじゃなく、全身が悲鳴を上げだす。
「いた、いたい……」
死ぬかもしれない。
こんな痛いの初めてだ。
ううん、痛いだけじゃない。
すごく悲しい。
悲しくて痛い。
泣き叫びたい。
泣きたい。
助けて。
やめて。
助けて。
痛い、痛いよ。
お願い。
僕を引き離さないで。