アイスブルー(ヒカリのずっと前)


救急隊員が部屋の中に入ってきた。
鈴音はパニックで、何をしゃべっているのか自分でもよくわからなかった。


「この子を助けて」と、
それだけを言い続ける。


救急車に乗り込む。
トラックの横でびっくりしている作業員に「
ごめんなさい、また連絡します」とだけ、必死につたえた。


「お姉さんですか?」
白いヘルメットに青いシャツを来た救急隊員が、ちらりと鈴音を見て訊ねる。

「ち、違います。あの、あ、雇い主です」
鈴音は救急車の中の小さな椅子に座りながら答えた。

「ご家族の連絡先をご存知ですか?」
救急隊員は、鈴音の向かいに座り、手元の紙に何やら書き込んでいる。

「あ……わかりません」
鈴音は拓海の携帯番号しか知らないということに、その時気づいた。


救急隊員は再びちらっと鈴音を見ると、軽く頷いてドライバーと搬送する病院を相談する。


「はやくして……」
鈴音は不安で、いてもたってもいられない。

「早く車を出して」
拓海の手を取って祈るように目を閉じた。


搬送先が決まったようで、ようやく車が走り出した。
国道沿いの、古い大きな病院に向かう。


鈴音は呪文のように「助けて、助けて」と繰り返した。


救急隊員は不思議そうな顔をして、鈴音の様子をみながら、ときどき「大丈夫ですよ」と声をかけた。


病院に到着して、救急口から入る。
身動き一つしない拓海は、ベッドにのせられ救急の処置室へ入って行く。


鈴音はついて行こうとしたが、青い服の女性看護士に廊下で待つようにと、止められた。
看護士に症状を聞かれる。
鈴音は必死になって説明した。


「とにかく助けてください」
鈴音はそう言って、手を祈るように組んだ。


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