アイスブルー(ヒカリのずっと前)
まだ不安で仕方がなかった。
カーテンの仕切りを出て、奥に備えられたベッドに案内された。
そのスペースも、カーテンでベッドとベッドが仕切られている。
窓際の仕切りをあけると、拓海が寝ていた。
窓からの優しい光が、拓海の頬を照らしている。
点滴はもうほとんど終わっていた。
「あと、三十分くらいですね」
看護士が点滴の速度を確かめながら言う。
鈴音が頷くと、看護士はパイプ椅子を用意してくれた。
グレーのビニールがかけられた椅子に腰掛けると、きしんだ音がする。
看護士が背後のカーテンを閉めた。
鈴音は拓海の顔を見た。
頬に赤みが戻っている。
バランスの良い、整った顔立ち。
結城の側にいると目立たないけれど、こんな男の子が好きだという女の子もいるだろう。
鈴音は手を伸ばして、拓海の髪を撫でた。
手のひらに暖かさが伝わる。
そこでやっと、鈴音は少し安堵した。
「ちゃんと検査を受けるように、言わなくちゃ」
鈴音は小さくつぶやく。
最近出会ったよく知らない男の子。
不思議なことを言う、変わった子。
拓海と過ごした時間は、自分のこれまでの人生から言えば、ほんの一瞬にすぎない。
けれど、拓海が死んでしまうかもしれないと思うと、不安で仕方なかった。
心臓を誰かにわしづかみにされたように、苦しかった。
この子が死んだら、自分の心臓は握りつぶされてしまうだろう。
そんな気持ちにもなった。
「なんでかな」
鈴音は拓海の腕を毛布の下に入れながら言った。
大きく溜息をついて、ベッドに肘をつく。
拓海が目覚めるのを待った。
病院の白い壁は、長年の間にグレーに変わっている。
ベッドサイドのテーブルも、触るとがたんと音がして、少し傾いた。
鈴音は点滴のしずくを見つめる。
時間は静かに動いている。
鈴音は目を閉じた。