アイスブルー(ヒカリのずっと前)
しばらく時間がすぎた後、拓海が「ん……」と小さな声を出した。
鈴音は拓海の手を取ろうとしたが、少し考えて引っ込めた。
拓海が目を開く。
一度、
二度、まばたき。
鈴音の顔を見る。
拓海が驚いたような顔をする。
「起きた?」
鈴音は優しく訊ねた。
拓海は自分の腕を見て、それから点滴を見上げる。
「病院よ。倒れたの。先生は熱中症だって」
拓海は再度鈴音の顔を見て、泣きそうな顔をした。
「大丈夫よ。もう帰っていいって。でも、一度精密検査をした方がいいわ。お母さんに相談してみて。わたしから直接言ってもかまわないから。こんな風に倒れるなんて、不安だもの」
鈴音は点滴が終わったのを見て、ナースコールを押す。
看護士が来て、拓海の腕から針を手早く抜く。
拓海はずっと黙ったまま、自分の腕を見ている。
「どうしたのかしら?」
鈴音は一言もしゃべらない拓海を不思議に思った。
「これを会計に出してくださいね」
看護士が鈴音にクリアファイルを手渡す。
拓海はベッドから足を下ろして、スニーカーをはいている。
「お会計のことは、心配しなくていいから」
鈴音が言う。
「わたしが払っておく」
拓海は何か言いたそうにしたが、少し考えて、小さく頭を下げた。