アイスブルー(ヒカリのずっと前)
二人で病院を出た。
暑い。
病院の玄関前までは屋根がついているが、道路のアスファルトは日差しでゆらいで見える。
「タクシーに乗ろう。駅までちょっと遠いし、また倒れても困るから」
鈴音は拓海に言った。
「おうちまで送るよ」
拓海は鈴音の顔をみて、首を振る。
まだしゃべらない。
鈴音は首を傾げた。
「まだ、具合悪いの? それなら無理をしなくても……」
拓海は再び首を振る。
鈴音は訳がわからず、溜息をついた。
「どうしたの、いったい……」
拓海は唇を真一文字に閉じて、鈴音と目を合わせない。
鈴音は拓海を促してタクシー乗り場まで行こうした。
拓海は鈴音よりも先に足を踏み出したが、玄関前の階段のところでよろめいた。
鈴音は思わず手を出して、拓海の腕をつかんだ。
「気をつけて」
すると拓海が鈴音の腕を、勢い良く振りほどいた。
鈴音はびっくりして、拓海の顔を見た。
拓海も驚いたような顔をしている。
「どうしたの?」
鈴音は再度手を伸ばすと、今度は拓海はその手を避けるように、二歩三歩と後じさった。
拓海は日差しの中に出て行く。
太陽の光で拓海の黒髪が光った。
目を大きく開いている。
その瞳から、突然涙があふれだした。
鈴音は呆気にとられて、立ちすくむ。
拓海は今まで堪えていたものが、途切れてしまったように、泣き出した。
「だ、大丈夫?」
鈴音は呆然としながらも訊ねた。
「殺した」
拓海が言った。
「え?」
「僕を……殺した……でしょ?」
「何を」
鈴音は息がつまる。
「僕を、いらないって。そして殺した」
拓海はそう言うと、くるりと向きを変えて走り出した。
拓海の背中が、どんどん遠くなる。
鈴音は追いかけようとしたが、足が固まって一歩も動けなかった。