アイスブルー(ヒカリのずっと前)
「どこからきたの?」
突然話しかけられて、拓海は驚いて目をあけた。
水着の女性が二人、パラソルを覗き込んでいる。
二人ともちゃんとお化粧をしていて、泳ぎに来たのではないな、とすぐにわかった。
一人の女性が結城の脇に膝をつく。
「いくつ? 若く見えるけど」
結城は無表情のまま、顔をそむけた。
あまりにも愛想がない様子に、拓海の方がどぎまぎする。
「十八」
拓海がかわりに答えた。
「男二人で、なにしてるの?」
相変わらず女性は結城に話しかける。
女性の水着は刺激的なデザインで、胸元には砂がついていた。
「あ、あの……」
拓海が答えようとすると
「放っておいてもらえますか?」
と結城が遮った。
結城のシャツが、潮風に吹かれてパタパタとなびく。
女性二人は、びっくりしたように目をみひらいた。
「わあ、冷たい」
「すいません」
拓海が小さく頭をさげる。
その様子を見た結城は、更に無表情を決め込む。
「ちょっと話したかっただけなのに」
女性は自分の胸を強調するように結城を覗き込んだ。
「俺、付き合ってる人いますから」
結城はそう言うと、女性の目を見上げた。
そのきっぱりした様子に、女性は少したじろいだ。
「まじめなのね」
きまり悪くなった女性二人は、肩をすくめると「ゴメンゴメン」と言って去って行った。
拓海は去って行く女性二人の後ろ姿を見ながら、
結城に「こっちがひやひやする」と言った。
「なんで?」
結城の前髪が潮風に揺れる。
「嫌な思いをさせちゃうじゃないか」
「こっちが嫌な思いしてるんだ」
「それでも」
「何? あの人たちとセックスしたかったの?」
「おい、なんだよ、それ」
拓海は顔が赤くなるのがわかった。
「だって、向こうはその気なんだよ。俺はやりたくない」
「表現が露骨すぎる」
拓海は口を尖らした。
「本当のことだよ」
結城が砂をつかんで、波に向かって投げた。
拓海も砂をつかんで、波に投げた。