アイスブルー(ヒカリのずっと前)
「お前の話しを聞きにきたんだ。あの人達と遊びにきたんじゃない」
結城が言う。
拓海は結城の横顔をちらりと見た。
「話し?」
「なんかあったんだろう?」
結城が言った。
「なんでわかるの?」
「長い付き合いだから」
結城が笑う。
「すごいな」
拓海は小さく溜息をついた。
「でも、お前のしかわかんない」
結城が再び砂を投げる。
波が砂をもっていった。
「……ずっと、話してないことがあるんだ」
拓海は小さな声で話だした。
「何?」
「俺、カメラを通すと、人の胸のところに光が見えるんだ」
「?」
結城が首を傾げる。
「どういうこと?」
「だから……」
拓海はカメラを取り出すと、遠くに見える女性二人の背中にむけて構えた。
電源を入れると、モニターに二人の姿が写る。
日焼けしたビキニの背中に、光が見えた。
「あの人たちの色は、緑と黄色」
「見えるの?」
結城が身体をのばして、モニターを覗き込む。
「普通だけど」
「僕にだけ見える。いろんな人の色が光になって。でもカメラを通した時だけだったんだけど」
「?」
「鈴音さん。あの人にも光が見える。でもカメラを通さなくても見えるんだ。初めてだったんだ、こんなこと」
「……お前は、人のオーラが見えるってこと?」
「オーラかどうかはわかんないけど。でも鈴音さんの光があまりにもはっきり見えるから、彼女のことが気になって仕方なくなったんだ」
「あの人は何色?」
「白い青。氷河みたいな」
「ふうん」
結城は目を細めて、パラソルの下から空を見上げた。
「それで?」
「それで……」
拓海は目を伏せる。
「なんで、あの人の色がこの目で見えたのか、この間わかったんだ」
「どういうこと?」
「あの人のうちの仏壇に……」
拓海はあの古い紙を触ったときの痛みを思い出して、鳥肌がたった。
「あの人のうちの仏壇に、子供の命日がかかれた紙があった。触ったとたんに、いろんなことが見えたんだ」
「見える?」
「うん。夢を見るみたいに。でも、目を閉じてる訳じゃない。あの人が、僕を……」
「?」
「うん、僕が僕になる前の命を、殺してるんだ」
「わかんないな」
結城が拓海の顔を見た。
「あの人、若い頃、子供を堕してる」
結城がびっくりしたように目を開く。
「僕は、その子供だ」
「なんだそれ……」
結城があぜんとして、拓海を見つめる。
「僕は一度あの人に殺されて、僕として生まれ変わった」