アイスブルー(ヒカリのずっと前)
帰りの電車に乗る前に、二人は服についた砂をはらった。
身体から離れた小さな砂粒は、ホームの上を流れて行く。
午後四時ともなると日差しも弱まり、涼やかな空気を感じた。
「焼けたね」
拓海は結城の腕を見て言った。
「夏を楽しんだっぽい」
結城はクリアケースを抱え直して、笑顔を見せた。
「帰ったら勉強するの?」
「当たり前だろう?」
「ナツキちゃんには会ってる?」
「ときどき」
結城はうつむいた。
「お似合いだったよ」
拓海はそう言った。
「そう?」
「お前がうらやましい」
拓海は思わずそうつぶやいた。
「そんないいものでもないよ」
結城が風に目を細めてこたえた。
「結城は頭がよくて、かっこよくて、性格もいい。神様からもらいすぎだ」
「今持ってる物が、一番欲しかったものとは限らないだろう?」
「それはそうだけど。でも、やっぱりうらやましいよ」
「俺はお前がうらやましい」
結城が言った。
「そうなの?」
「そうだよ」
結城が笑う。
電車が大きな音を立てて近づいてくる。
風が二人の間の砂を巻き上げた。
結城が髪を手で押さえる。
拓海も結城をまねて、自分の髪をかきあげた。
「なんだか、様にならない」
拓海は小さく言った。
「何?」
結城が扉の前で拓海を振り返る。
「なんでもない」
拓海は手をふると、電車に乗り込んだ。
席はガラガラ。
冷房は思いのほかきいていなかった。
二人で海を背にして座る。
列車が出発した。