LOVE GAME〜あたしの帰る場所〜
「私、会計して来るわね。二人で外来の待合室で待っててね」

 軽く手を振りながら、節子が病室を出て行った。残された彼等は、お互いの顔を見合わせていた。

「それ、僕が持つよ」

 雄二は深空の手から紙袋を取り、提げる。

「ねぇ」

 深空は彼の袖を引っ張った。

「え?」

「それ、反対側の手で持って。…手、繋いでも、いい…?」

 深空は、顔から湯気が出そうになりながら、彼に尋ねた。彼は、そんな深空を驚いて見つめている。

「…ごめんなさい。なんでもないの。行こう、下…」

 雄二の反応を見て、深空は慌てて笑い飛ばそうとした。そして、先に歩き出す。

 その時深空の手は、大きくて温かい手に包まれていた。

「え…っ」

 びっくりして振り返ると、雄二も照れ臭そうに顔を赤くしていた。

「…これで、いいのかな」

 鼻の下を指で掻きながら彼が言うと、深空はコクんとうなずいた。二人は、ぎこちなく手を繋いだまま、病室を後にした。

 病院に呼んだタクシーに乗り込み、三人は彼のアパートに向かっていた。車中では、節子が反応がイマイチの雄二に、笑顔で昔の彼の話を聞かせていた。

「あなたが6年生の時ね…」

 自分のことだというのに、初めて聞くかのような顔をして、雄二は聞いていた。深空も、知らない事実を耳にして、笑っている。

 明るく振る舞う節子の、子を想う気持ちを深空はひしひしと感じていた。それは、憧れであることに気付き、羨ましくも思う。

 以前の自分には無かった心…

 深空はそんなことを思いながら、節子の話に耳を傾けていた。

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