LOVE GAME〜あたしの帰る場所〜
 その瞬間―

 後ろから肩を抱きしめられていることに気付く。

 何度も嗅いだことのあるおなじみのタバコの匂いと、間近に迫る雄二の体温を深空はもろに感じていた。

 それでも自分に言い聞かせている。自分を今包んでくれているのは、自分を本当に愛してくれている彼ではない、と。

 きっと、同情されているに過ぎないんだ、と…

 そう思わなければ、自分が傷つくだけなんだと…

 そう思わなければ、自分のありのままの感情に流されてしまうだけだ、と…

「無理、しないでよ… 惨めになるだけだから…」

 深空が雄二の腕を振りほどこうとすると、彼は一層力を込める。

(そんなに強く… 抱きしめないで…)

 しかし、言葉に出して言えない。

「無理なんてしてないよ…」

 深空の耳元で、雄二は囁くような小さな声で言った。深空は震えていた。

 このまま、自分がどうにかなってしまうのではないかと思うほど、深空の心臓の鼓動は、早く打ち付けていた。

 あまりの鼓動の早さで、苦しくて、涙が込み上げる。そのあふれた涙は、雄二の手の甲にポロポロと落ちていった。

「なんで、泣くの」

「わかんないよ…」

 深空は首を振り、答える。

「…俺のせい?」

 優しい、声…

 漏れる吐息は、熱い…

 「先生の他に誰がいるの…?」

 深空の涙声が、その玄関に響いた時―

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