LOVE GAME〜あたしの帰る場所〜
 その背後に映る影が、幻想的な桜の花びらの隙間から見えてくると、深空は目を疑った。深雪の手を握る彼女の手の平には、うっすらと汗をかく。そして、異常なほどの喉の渇き…

 思うように声が出せず、ただ目を見張っているが、その影は段々と色濃くなっていき、その風景に定着する。

「ママ~、まだー…?」

 深雪は目を擦りながら、急に動きが止まった深空に催促するが、彼女の耳には、届いていなかった。

(どうして…)

 空いた手を胸に当て、深空は呼吸を整えようとするが、それすらもうまくできない。

「ママ~?」

 深空のスカートを引き、深雪はさらに催促する。

「あ… ゴメンね」

 ようやく深雪に気付いた深空は、アパートの敷地に入り、薄暗い部屋の前に立つと、バッグから取り出した鍵を鍵穴に差し込んだ。ドアを開けてやると、深雪はすぐさま部屋に入っていく。

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