LOVE GAME〜あたしの帰る場所〜
 狭い車中では何も言葉を交わされることはなく、雄二は前を見たまま、何も語ろうとはしなかった。深空は唇を噛み、イライラした様子でしきりに手の指を動かしながら、闇しか映らない窓を眺めている。田舎道なだけあり、街灯が少なく、外はすっかりと闇に包まれていた。

 時折、舗装が不十分なせいで激しく揺れる。それでも深空の視線の先は、窓にあった。

「…なにがあったんだ」

 フロントガラスを見つめたまま、雄二が不意に口を開く。

「……」

 深空は何から話したらよいのか迷っていた。

「どうしてここの住所が解ったんだ?」

「…以前、お義母さんから手紙もらったから…」

 深空の手には、節子の書いた手紙の封筒が握られていた。

「お袋、そんなことしてたのか」

 彼は、彼女の手に握られているその白い封筒をちらりと見た。

「一週間くらい前、翠さんがうちにきたの。先生が、深雪を欲しがってるから育てたいって…」

「何だって…?」

 深空の言葉を聞いた雄二は眉をぴくりと動かした。

「あたしは、当然拒否した。そうしたら今日、誰かに駅のホームで背中押されて、その間に深雪が園から誰かに連れ去られた…」

「…翠がやったと?」

 雄二の問いに、深空は迷わずうなずいた。

「あなたが立ち直るのに、血の繋がった子供が必要なんだって…」

「……」

 雄二は、口をつぐみ、再び前を見る。

「立ち直るため… か…」

 前を見たまま、雄二はクスリと笑った。深空は、悲しそうに笑う雄二の横顔を見つめた。
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