婚約者から逃げ切るだけの簡単なお仕事です。
*1*
【作戦に失敗しました】
誰にだって、人に知られたくない秘密の一つや二つはあると思う。
それは自分の性格だったり、過去の黒歴史だったりと様々だ。
けれど、私の場合は――
「……さん、星華さん?」
「ッ!?」
心配そうな声に呼びかけられて、ハッと私は我に返った。
慌てて周囲を見回せば、こちらを気遣わしげに見つめている一人の男と目が合う。
……そこでやっと私は、今まで自分の婚約披露パーティーに出席していた事、
体調不良を理由にお客様への対応を一時的に両親に押しつけ、控室として割り当てられたホテルの一室へ引っ込んできた事を思い出した。
そして、『心配だから』と言ってここまで付き添ってくれた男の存在も。
「大丈夫?なんか、心ここにあらずって感じだったけど」
大きな漆黒の瞳が、私の体調を窺うように細められる。
そのまま男が首を傾ければ栗色の柔らかそうな髪がサラリと揺れた。
穏やかな声。
そして、まるで人形のように整った綺麗な顔立ち。
――西山敬太(ニシヤマ ケイタ)様。
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