婚約者から逃げ切るだけの簡単なお仕事です。
最近少し忘れかけていたけれど、元々私の目的は『敬太様と真凛ちゃんの恋愛を近くで見守る事』だったはず。
『悪女になる』というのはそのための『目的』であり、別に『目標』では無いのである。
ならば、真凛ちゃんや真奈ちゃんと友達になれた今、私がこのまま敬太様と婚約している理由は無い。
悪役を目指す理由には
『二人の恋を(悪役となって)盛り上げる』
というのもあったけれど、今回の作戦が成功すれば二人の仲もいっそう親密になるだろうし、
まぁ元婚約者という立場があるから妨害役もなんとかなるだろう。……多分。
(密会するまでに二人の仲が進んでいる今、あとは二人の仲がさらに深まるようにお手伝いするだけだしねー。
敬太様の婚約者として悪役を目指す理由が無くなったなら、さっさと撤退するに限るでしょう)
私がそんな事を考えながらスマホをギュッと握りしめたその時、ガラリと音を立てて社会科準備室の扉が開いた。
驚いてそちらを振り向けば、
「……七宝院さん。こんな人気のない教室でいったい何を?」
そこに立っていたのは、目を軽く見開いた菅原様だった。