婚約者から逃げ切るだけの簡単なお仕事です。
万が一にもありえないけれど。
もしも私――八車真奈に、親に決められて『婚約者』という存在ができたとしたら。
さらに、自分はその相手に対して恋愛感情も何も持っておらず、その上『婚約者』はどうやら同じクラスの女の子と良い仲らしい、という噂を聞いたとしたら。
まず私がする事といったら……
(そうだなぁ。とりあえず、まずはその噂の真偽を確かめるために裏付け取りと聞き込み調査だよね。もちろん、本人たちにはバレない程度に)
私は一つ指を折って唸り、その後の展開も考えていく。
(噂がデマだって分かったら別にいいけど、もしも裏付けが取れたら……写真なんかの動かぬ証拠を掴みたいかな。そんでもって婚約破棄へ動く)
情が移っていたり、多少なりとも相手に好意を持っていればまた違った行動パターンになるとは思うけど、『相手に好意も何も持ってない』状態なら、まず間違いなくこう動くだろう。
つまり
『他の人と結ばれるのは構わないけど、婚約者を裏切った形になるわけだからちゃんと責任取ってね』
と。
こうすれば向こうは親に決められた婚約者ではなく好きな相手と結ばれる事が出来るわけだし、自分も自由に恋愛ができるし、万々歳だ。
……さて、ここで星華ちゃんの行動を振り返ってみよう。