婚約者から逃げ切るだけの簡単なお仕事です。
【回想をしていました】
ウキウキしながら迎えた入学式は、
カイロを持っていないとちょっと寒いくらいの気温だった。
まだ冬の面影を残す澄み切った空気に首を縮めつつ、
白い息を吐き出した私は玄関の鏡の前に立つ。
『んー、……よし!今日は寝癖も直したし!』
くせっ毛のせいでいつも寝癖がつく髪をいじりつつ、
とりあえず満足した私は鏡を見ながら一つ頷く。
そのまま、他に変なところはないかと全身をチェックしていたその時、
家の奥から自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
履きなれていないローファーに足を突っ込みつつ
そちらへ視線を向ければ、そこには焦った顔のお母さん。
余所行きの服を着て、いつも以上に化粧をバッチリきめているのが遠目に見ても分かる。